ビル・ゲイツ×東芝×原子力発電所=??

【現地記者に聞く】ビル・ゲイツ原発に魅せられた理由
今月、米マイクロソフト創業者で会長のビル・ゲイツ氏が、東芝と共同で小型原子炉の開発に乗り出すとのニュースが世界中を駆けめぐった。それまで原発に関心を持っていたことはほとんど知られていなかったゲイツ氏が、原子力エネルギーに着目するようになったきっかけは何か。今後何を目指し、どのような戦略を展開するのか。ウォール・ストリート・ジャーナルのサンフランシスコ支局で10年以上にわたってゲイツ氏の取材を続けているロブ・グース記者に聞いた。
ウォール・ストリート・ジャーナル日本版(以下WSJ日本版):ゲイツ氏はいつごろから原発に関心を持ち始めたのですか。
グース:真剣に考え始めたのはこの3年くらいでしょう。ゲイツ氏は自らの慈善財団を通して、貧困国救済に多くの時間を割いてきました。活動の中心は、ワクチンの製造と輸送です。それよりも基本的なこととして、発展途上国でも賄える信頼性のあるエネルギーシステムの構築が必要との考えに至ったようです。彼の財団は、世界全体の健康と開発、米国での教育の3分野を主な対象としています。それ以外にも彼は特許管理会社「インテレクチュアル・ベンチャーズ(Intellectual Ventures)」にも投資をしています。この会社を経営しているのは、元マイクロソフト最高技術責任者(CTO)で、親しい友人でもあるネイサン・ミアボルド氏です。彼らが注目している分野のひとつが原子力エネルギーです。
WSJ日本版:ゲイツ氏が原子力エネルギーに関心を持っていることは以前から知られているのでしょうか。
グース:最近まで隠していたようです。手を広げすぎていると思われたくなかったのでしょう。また彼の財団は、教育、健康、開発の分野で、多くの時間と資金を必要とする大きな目標を複数抱えています。ですが今年にはいってから、彼はエネルギーについて公の場でも詳しく語るようになりました。変化が表れたのは、2月にカリフォルニア州モントレーで開かれた会議でのスピーチです。そこで彼はCO2削減に不可欠であり、開発途上国にふさわしい5種類のエネルギー源のひとつに原子力を挙げました。
WSJ日本版:ゲイツ氏が最初に原発に関心をもったきっかけは?
グース:市場がニーズを満たしていない分野をターゲットにする、というのが彼の投資手法です。彼の資金を出すアプローチは、ニーズが満たされているか否かがポイントです。満たされていなければ彼のターゲットになります。90年代にマラリアのような死亡率の高い病気の撲滅活動に投資がほとんど行われていない状況を知り、現在はそういった活動に資金を投じています。気候変動の分野では、彼の言葉を借りると、CO2削減に関連する問題を解決できるだけの「ブレーンパワー」がすでに存在すると結論を出しました。ですが4年ほど前から石油について多くの書籍を読み、科学者から話を聞くなどの試みを始めています。ネイサン・ミアボルド氏とも話し合っていたようです。ミアボルト氏はこの件に関して独自の調査を進めており、ゲイツ氏同様、知識欲と好奇心が旺盛な人物です。ゲイツ氏は原子力エネルギーについて猛勉強し、資金提供が行われていないエリアがあることを知りました。それが考えを変えるきっかけになったのだと思います。
WSJ日本版:突然ひらめいたということでしょうか。
グース: 彼は物理学者リチャード・ファインマン(1918-1988)の熱心なファンです。一度も対面できなかったことを残念に思っているようです。この数年、ファインマンの講義のほかに、素粒子物理学量子力学など原子力と関係のある科学全般を研究しています。ファインマンは原爆を開発したチームのメンバーで、スペースシャトル「チャレンジャー」爆発事故の原因を究明したひとりでもあります。難解な概念を素人の聴衆に分かりやすく説明することのできる優秀な科学者で、ゲイツ氏が好むタイプの人物です。特にファインマンの入門物理学の講義は、幅広い層に非常に分かりやすい内容だと称賛しています。いかにもビル・ゲイツ的な考えです。最先端のテクノロジーを幅広い層が利用できるようにすることはゲイツ氏が何よりも重視する理念です。彼が原子力エネルギーに目を向けることになった根底に、ファインマンの存在があったことは間違いありません。
WSJ日本版:ゲイツ氏は小型原子炉で何をしようとしているのでしょうか。
グース:彼のチームは、従来廃棄物とされてきた使用済み燃料を活用しようとしています。現在の原子炉では、燃料とされるウラニウムはごく少量で、ほとんどは廃棄されており、世界規模の問題に発展しています。今回の計画は、廃棄部分を取り出して、開発予定の新技術で燃料に変えるというものです。計画では、地中深くに建築された原子炉を使用済みウラニウムで満たし、50年分のエネルギーを生み出するというものです。この間、人的作業は必要ありません。
WSJ日本版:東芝はどの段階でかかわってきますか。
グース: このプロジェクトの手順は、実行可能かどうか判断するためスーパーコンピューターで作業過程をシミュレートし、予想通りの結果になるかどうかを実験し、それから試験原子炉を構築するというものです。インテレクチュアル・ベンチャーとその子会社「テラパワー」がその技術とアイディアを持っています。東芝は原子炉開発で実績があります。最後の2段階で東芝が技術提供することになるでしょう。
WSJ日本版:注目すべき次のステップは何でしょうか。
グース:東芝テラパワーが真のパートナーシップを築けば、水面下で技術協力が進むことになります。プロジェクトに出資するパートナーも出てくるかもしれません。計画が進むにつれて、必要とする資金は劇的に増えていきます。現時点でも、シミュレーションと準備作業に巨額の資金がかかっています。アイデアをテストするためには、たいへんなお金がかかります。試験原子炉を構築するのにさえ何十億ドルも必要です。ゲイツ氏は確かに資産家ですが、私財をすべてこのプロジェクトに投げ打つようなことはしないはずです。このような壮大なアイデアを発表することで、多くの人びとに計画に参加してもらい、資金を集め、投資の好循環とイノベーションを生み出そうとしているのです。
WSJ日本版:このプロジェクトからどのような結果が得られるでしょうか。
グース:まず、これが長期的な計画であることを心得ておく必要があります。少なくても10年はかかるでしょう。テクノロジーが実験で証明され、規制当局の許可を得なければなりません。米国では規制の枠組みがまだ存在しません。そのため米国政府が承認プロセスを設定する必要があります。この計画には、テクノロジ−、政治、資金など様々な分野がかかわってくるのです。
ウォール・ストリート・ジャーナル - 3月29日12時8分)

いい悪い以前に、唖然・・・。