人がコンピューターに支配される日

あの「超高収入な職業」が人工知能出現で失業の危機!?
(ダイヤモンド・オンライン 5月20日(金)8時0分)


● 世界最高峰の棋士に勝った グーグル「アルファ碁」の衝撃
グーグルが開発したAIの「アルファ碁」が、世界最高峰の囲碁棋士を破った。実はこの話、以前、IBMのコンピュータがチェスの世界チャンピオンを破ったときとはインパクトが違う。
まず第一に囲碁についての思考難易度はチェスをはるかに上回る。第二に今回のコンピュータはプログラムで勝ったのではなく、思考力でプロ棋士に勝ってしまった。
実は今回の話の一番恐ろしいところはここにある。以前のチェスのときのように、チェスを指すプログラムと計算処理が人間に勝ったのではない。囲碁をプロ棋士のように学習するようプログラミングされたAIが、過去の棋譜を読みながら急速に囲碁を学び、あっという間に人間の最高峰に勝つところまで囲碁がうまくなったのだ。
これをディープラーニングといって、AIの世界で起きた50年ぶりのブレークスルーといわれるぐらいすごいことだという。
なにしろ「アルファ碁」に負けた試合の感想戦でこんなことがあったらしい。感想戦とはプロ棋士同士が、その試合の棋譜をみながら、どこで勝ち負けの分かれ目になったのかを議論する場である。今回の感想戦では、プロ棋士にミスがあったわけではなかったそうだ。
にもかかわらず、ある局面でプロが「なんでこんな手を思いつくんだろう? 」と思うような手を「アルファ碁」が打ってきて、結果的にはそれが効いてプロ棋士が負けてしまった。つまり、最高峰の人間よりも鋭い直観力をAIが持つようになったのだ。
● アルファ碁のようなAIに 仕事を奪われる「ある職業」とは
さて、AIがプロ棋士よりも強くなったからといって、棋士が失業することはない。それはそうだろう。囲碁は人間同士の戦いを競う競技だ。たとえて言えば、ピッチングマシンが200km/hのボールを投げられるからといってメジャーリーガーが失業するわけでもない。ただAIの技術が人間の能力を超えただけだ。
しかし今回の「アルファ碁」で、たぶん世界中の「ある職業」の人が気づいてしまったことがある。それは「この特長をもつAIを最初に『われわれの仕事の世界』に投入した者が、巨額の富を得るようになるだろう」ということだ。
その職業について、潜在的には「アルファ碁」の経験値を持つグーグルが最先端を行っているはずだが、水面下でこれに気づいた人たちが、すでに開発に着手しているかもしれない。囲碁のプロに勝つほどの洞察力と思考力、そして学習能力があるAIにこれを覚えさせれば、かつてない富が手に入る仕事――。
それは、金融商品のトレーダーの仕事である。
たとえば株のデイトレーダーがなぜ儲けることができるのか? それは人間心理の逆をつくからだ。人間心理というものは常に過剰に反応する。株価が上がりだすと、どきどきしてきて乗り遅れまいと株を買う。株価が下がりだすと、あわてて売ってしまう。
うまいデイトレーダーに話を聞くと、彼らは株価の動きの経験値を根拠に上がりだした株をどこかで売り、急速に下がったところで買い戻す。結局、へたくそな投資家心理に翻弄される側が損失を作り、心理戦に勝つデイトレーダーが利益を得る。
ヘッジファンドがなぜ儲けることができるのか? 彼らは市場のゆがみに着目する。ある通貨が過剰評価されているという事実を見つけ、徹底的にその通貨を売り浴びせる。最後はその国の中央銀行との戦いとなり、中央銀行が多額の損失を被った結果が、ヘッジファンドの巨額なボーナスになるという結果を生む。
もっと堅実なファンドマネージャーもいる。生命保険や年金の運用で、長期的な運用としては一番正しいと思えるポートフォリオを組んで預かった多額の資金を運用する。個別の銘柄では勝ち負けがあっても、それをたくさんの銘柄で分散投資をすれば堅実に儲けを上げることができる。
● 世界一の自己学習型AIが 金融の世界を飲みこんでいく
さてここで考えてほしい。ファンドマネージャーやトレーダーが人間同士の戦いを繰り広げているうちはそうなのだが、相手が「アルファ碁」クラスのAIだったらどうなるだろう? 
世界中の金融市場のリアルタイムのデータを即時に分析ができるAI、そしてロイターをはじめあらゆる経済ニュースをリアルタイムで理解できるAI、さらには過去起きてきた相場の動きから人間心理がどう相場を動かすのかを自分で学習できるAI、それが相手だったらどうだろう? 
それがデイトレードであれ、ヘッジファンドであれ、堅実な年金の運用ファンドであれ、人間が犯すミスの分はすべてAIの取り分になってしまうのではないか。たとえば最近、不正が発覚した三菱自動車の株価が暴落したと思ったら、急に日産の傘下に入ることが決まった日にこんなことが起きた。
「倒産まで行くかもしれない」という期待から三菱自工の株を大量に空売りしていた投資家が真っ青になったのだ。まさかこんな早く、日産による資本参加などという意思決定に時間のかかる形での救済策が発表されるとは! と予想もできない展開に驚愕した。
しかしこれがAIなら、それも読んでいたかもしれない。過去のゴーンさんの思考や行動も含めリスクを測定し、仮定として軽自動車の共同開発以上に踏み込んだ提携の話が進んでいた場合に、どう日産が動くかを想定したAIがあったら、それは暴落した株を冷静に買いあさるという行動に出ていたかもしれない。
あくまで想定であり、あくまで想像なのだが、金融の世界がいまの段階で世界一のAIが一番活躍でき、一番費用対効果が高い仕事場所である。
これはこれまでの株式のプログラミング売買とは次元が違う。人間がアルゴリズムを考えて、それに沿って自動的に株の売買を行う。これまでのプログラム売買では結果としてアルゴリズムが暴走し、逆に証券会社に多額の損失が発生するケースも多発している。
今回論じられているのは、自己学習型のAIである。人間のアルゴリズムで動くのではなく、自分で市場の動きのメカニズムを学習し、市場のすべてのトレーダーよりもうまく、市場のゆがみを発見し、市場のすべてのトレーダーの失敗、これはプログラム売買のアルゴリズムを設計した人の失敗も含めてすべての失敗による損失を吸い上げていく。
言い換えると、人間には予測しきれず、マネージすることなど想像もできない「市場」という化け物を、理解しコントロールするような化け物が登場する可能性があるということだ。先だって、囲碁感想戦で誰も思いつかなかったような石を置いた「アルファ碁」のように。
そのようなAIが近い将来、秘密裏に金融市場に投入されていくだろう。
そう考えると、今、一番背筋が寒いのは、それによって失業の危機に陥るファンドマネージャーたちなのではないだろうか? 

SFの世界ではなくなりつつあるのが怖い。