むしろありがたい傾向

iPhone至上主義」は、すでに過去のものだ
東洋経済オンライン 4月23日(土)6時5分)


モバイルアプリの世界には「iPhoneファースト」という言葉がある。いや、正確にいえば「あった」というべきかもしれない。
世界ではAndroidユーザーのほうが多勢にもかかわらず、開発者はまずiPhone向けにアプリをリリースして初期ユーザーを開拓し、Androidへと広げていく傾向がある。起業したばかりのスタートアップにとって、「1デバイス、1OS」を実現してきたiPhone向けにアプリを開発するほうが開発リソースを少なく済ませることができる。これが、iPhoneファーストの流れを作り出してきた。
しかし、この構造に変化が表れてきた。
■ Google Playの月間ユーザー数は10億人
ストアに登録されているアプリの総数は、長らくアップルのApp Storeが上回っていたが、2015年にGoogle Playストアが逆転している。アプリの市場調査を行うApp Annieなどの統計によると、App Storeが約150万本、Google Playは160万本と、Androidアプリの数のほうが上回った。
グーグルによると、Google Playの月間ユーザー数は10億人を超え、すでに500億本以上のアプリがダウンロードされたという。サービスの展開エリアは190カ国に拡がり、2015 年2月までの12カ月で、70億ドルを開発者に支払っている。
特に活発な動きをしているのがゲームカテゴリーだ。Google Play Gamesユーザーは、2015年5月までの6カ月間で1億8000万人と、モバイルゲームプラットホームの中では最も早い成長を遂げている。Androidユーザーの4人に3人は、ゲームをプレーするとのデータもある。
なかでも善戦しているのが日本のゲームアプリで、Google Playにおける国別開発者収益のデータにおいて、日本は世界トップ3に入っている。2015年10月までの2年間で、日本の開発者収益は3倍に伸びており、ミクシィバンダイナムコ、スクエア・エニックスといったベンダーが注目されている。
グーグルは日本の開発者をどのように後押ししているのだろうか。Google Playストアのアプリ開発支援について、Google Playストアのゲーム・アプリケーションディレクターであるパニマ・コチカー氏に、米国カリフォルニア州マウンテンビューのグーグル本社で話を聞いた。
コチカー氏は、「支払い方法をより簡単にすること」に取り組む過程で、かつて日本のケータイビジネスで行われてきた月額課金制にも着目し、成果を上げているという。
■ 長い関係性を作るのに有利な「定期購読」モデル
「われわれは、課金方式についても、より簡単に行えることをプラットホームとして整備しようとしています。開発者は、アプリやビジネスモデルに注力すべきであり、課金のプラットホームまで考える必要がないよう、環境を整えようとしています。
無料で遊び始められることはゲームには重要ですし、99セント(約120円)という小さな金額で収益を上げながら広くユーザーを獲得する戦略も有効です。これらに加えて、サブスクリプション(定期購読)モデルは、さまざまなメリットが見直され、注目を集めています。
サブスクリプションモデルでは、ユーザーとより長い関係性を作り出し、ビジネスの長期的な価値をデザインすることができます。家族やキッズ向けのアプリでは、子供たちがアイテムを利用するたびに課金を親にせがむより、自由に楽しむことを優先できます」(コチカー氏)。
アプリによって用意すべき期間も変わる。たとえば雑誌の定期購読では、年間100ドルという価格設定は受け入れられるだろう。デートアプリの場合は、出会わないのに支払いを続けるのはおかしい。せいぜい3カ月、6カ月と期間を決めて集中すべきだ。音楽やフィットネスなど、永続的に課金していく場合は、1カ月単位のほうが、課金の金額を少なく見せることができて、ハードルを下げることができる。無料期間を設けたり、サブスクリプションを解除しやすくする工夫も、成功しやすい手法だそうだ。
Google Playストアはグローバル市場だ。基本的には同じアプリを世界中の人々からダウンロードしてもらえるように設定できる。しかし、それだけでは世界で受け入れられるアプリにはならないという。
「開発者がグローバルで成功することができるよう、われわれはマウンテンビューから支援しており、日本の開発者の支援も行っています。ミクシィはすでに大きなインパクトを与えていますし、ゲーム以外ではSmart EducationやSmart Newsなどの教育やニュースアプリも人気があります」(コチカー氏)。
■ モンストは国によってデザインを変更
たとえば、ミクシィの『モンスターストライク(モンスト)』は、Google Playの国ごとのストアデザイン編集機能を使い、同じアプリをかなり異なるデザインで紹介している。日本向けのストアでは、バナーにはたくさんのキャラクターが散りばめられた、「盛りだくさんで充実している」イメージを与えている。しかし米国向けのストアでは、役者がCGで作られたモンストの世界を体験している、映画の予告編のようなムービーが採用されていた。翻訳するだけでなく、より効果的なストアページのデザインに取り組むことができる点は、Google Playストアのグローバル性を象徴している事例だ。
コチカー氏は、グローバルで受け入れられるよいアプリを作るためのコツと、Google Playストアのツールの活用についても紹介してくれた。
「よいアプリを作るためのステップは、4つあると考えています。ひとつ目は、マテリアルデザイン(統一感のある使いやすいデザイン)を用いることです。美しいデザインのアプリは、エンゲージメント(愛着)を作り出すというデータがあります。どのような動作をするのかを明らかにし、適切な色を活用することが重要です。
2つ目は、どのようなフィードバックを得るか。Google Playストアでは、手軽にベータテストコミュニティを作ることができ、公開せずにテストが可能です。少しずつアプリを公開しながら新しい機能の動作を試すことができます。現在、ベータテスト中ですが、クラウドテストラボでは、存在するあらゆるAndroidバイスでの動作をテスト可能です。
3つ目は、A/Bテストです。自国内で、アプリがよりダウンロードされるよう、ストアのデザインや言葉を変えて見せたり、ローカライズやカルチャライズ(文化に合わせて改変すること)を試すことができます。
そして4つ目は、ビジネスマネジメント。ストアページへの流入やコンバージョン、クラッシュ分析、アドワーズ分析など、アプリがどのように受け入れられているかを明らかにし、改善ができるのです」(コチカー氏)。
Google Playは、開発者にプラットホームを提供するだけでない。開発者とともにアプリを成長させるため、戦略を練ったり、ストア上でA/Bテストなどを提供するチームがある。
この仕組みは、かつて日本でiモードの公式サイトが、NTTドコモとともに成長してきたモデルを参考にしているという。モバイルコンテンツの発展やビジネス開発は、日本のケータイ業界が10年前から経験してきた歴史がある。グーグルにおいても、日本のケータイはケーススタディになっているのだ。
そしてそのノウハウは、日本のアプリをどう世界へ売り込んでいくかに生かされようとしている。
■ ウエアラブルやVRに対応することも重要
コチカー氏は、Androidバイスの多様化に対応することも、今後のGoogle Playプラットホームにとって重要だと語る。たとえばAndroid Wearを搭載するウエアラブルデバイスや、Android Auto搭載の自動車端末もカバーする。
テレビやVR(仮想現実)などの新しいトレンドやテクノロジーも押し寄せてくる。マテリアルデザインスマートフォンタブレット以外のデバイスもカバーするよう設計されており、それは時計だろうが、テレビだろうが、VRであっても同じだという。デザイン以外のガイドラインについても適切な形で設計し、開発者のビジネスを成功させるためのサポートを、シームレスに行えるようにしていくそうだ。
グーグルは、アプリに本気で取り組んでいるのである。

つまり、ガラパゴスはアイデアとテクノロジーの宝庫だったってことだ。
それを信じ込んでしまったわれわれの敗北。