実現性は高いのか?

羽田空港を便利にする「たった200メートル」の延長線計画
ITmedia ビジネスオンライン 4月15日(金)9時7分)


●東京の鉄道網をデザインする答申案
2016年4月7日、交通政策審議会は「東京圏における今後の都市鉄道のあり方について(案)」をまとめた。東京に限らず、鉄道は地方行政と密接なかかわりがある。そこで国土交通省国土交通大臣の諮問を受けて、地方ごとに交通審議会を設け、自治体や運輸事業者の要望を整理する。まさに「交通整理」だ。そこで客観的に重要と認められた案件が国土交通大臣宛てに答申される。
首都・東京とその周辺については、運輸省時代から「運輸政策審議会」が答申を作成していた。いわば「路線開発のお墨付き」である。鉄道会社と自治体の話し合いがもたれ、事業が伸展していく。鉄道開発は沿線の地価を左右するから、答申は鉄道事業者だけではなく、不動産業、レジャー産業など広範囲から注目を集める。
運輸政策審議会は省庁再編の結果、交通政策審議会となった。運輸政策審議会が提出した答申18号の目標が2015年年度だったため、引き続き、交通政策審議会が新たな答申を作成したという経緯だ。新路線の建設は、鉄道会社の構想発表や自治体の国への働きかけなどが報じられている。それらの多くが答申案に盛り込んでもらうための活動といえる。
新たな答申案は、答申18号の未完成区間をほぼ継承している。答申18号の背景は「混雑緩和」と、拡大した住宅地域からの「通勤時間の短縮」。そして、成田空港B滑走路建設、羽田空港再拡張工事を見越した空港アクセスであった。
●新しい答申案を俯瞰する
新たな答申案の背景として、最も重要な要素は「東京の国際競争力の強化」だ。羽田空港の国際線が増便し、成田空港はLCC(格安航空会社)が成長した。グローバル企業のアジア拠点として東京を選んでもらうために、空港アクセスの交通整備は欠かせない。また、JR東海が自主建設を決めたリニア中央新幹線とのリンクも考慮された。リニアの駅ができる品川は羽田空港と成田空港の両方のアクセスと結節する。
地域内の傾向としては、少子高齢化による通勤・通学需要低下、夜間人口の都心回帰という要素もある。従って、路線拡大よりもバリアフリーなどを重視した「量より質」への転換が求められる。それにしては、答申18号の計画がほぼ継承されたという結果は意外でもある。
項番10の埼玉高速鉄道の延伸は地元の運動が根強く、東武鉄道野田線の複線化や急行運転に力を入れているから理解できる。しかし項番18のメトロセブンエイトライナーについては近年目立った動きがなかった。審議会に向けた陳情だけが行われる。まるで亡霊のようなプランである。もっとも、この路線の効用は私も評価している。実現に向けて具体的に動き出してほしい。交通政策審議会も「ちゃんとやりなさい」という意味を込めてリストアップしたと思う。
最も緊急性の高い区間は、項番17の京王線笹塚〜調布間複線化だ。ここは輸送力の増大という意味だけではなく、踏切の解消が急務になっている。先日の国会で「踏切道改良促進法」に基づき、国土交通省が4月12日に改善すべき踏切を公表した。58カ所のうち25カ所が京王線で占められている。同法は自治体と鉄道事業者に任せきりだった踏切の改良、解消について、国土交通大臣が改良すべき踏切道を指定し、改善を促すよう改められた。
●「羽田空港国内線ターミナル駅引上線の新設」は良案
新しい答申案で新規に盛り込まれた路線は3つ。項番4の「京急空港線羽田空港国内線ターミナル駅引上線の新設」、項番6の「都心部・臨海地域地下鉄構想の新設と常磐新線延伸の一体整備」、項番8の「都心部・品川地下鉄構想の新設」だ。
このうち、最も小規模な「京急空港線羽田空港国内線ターミナル駅引上線の新設」は、小規模ながら効果は大きい。京急空港線の増発が期待できる。なぜなら、複線区間終端駅のネックとなる「交差支障」が解消されるからだ。
交差支障とは、列車が分岐器などでほかの線路を通過するとき、他の線路上の列車を停めてしまう問題だ。複線区間の終端駅は、駅の手前に交差分岐器がある。この分岐器のおかげで、すべての到着列車がすべてのホームに入れるし、どのホームの列車も折り返して左側通行の線路に入れる。しかし、列車の到着順序によっては、到着する列車が分岐器を通過する間、出発列車が足止めされてしまう。
そこで、交差分岐器を到着ホームの後ろに設置し、到着した列車をいったん背後に引き上げて、改めて駅に戻して出発させる。このための線路が引上線である。駅の手前で起きた渋滞が、駅の停車時間と相殺できる。交差支障そのものは引上線部分で起きるけれど、交差支障を駅の後ろに移動させるだけで、列車の発着がスムーズになる。
引上線に必要な距離は、京急電鉄が運行する8両編成と分岐器に必要な距離。少し安全マージンを取ったとして、200メートル足らずである。わずかな距離だが効果は大きい。
時刻表を基に列車ダイヤを作ってみた。通勤ラッシュ時間帯にもかかわらず運行間隔がまばらだ。その理由の1つに交差支障がある。終点の羽田空港国内線ターミナル駅手前で列車同士がすれ違わないように調整している。
京急空港線の増発にはほかにも課題がある。ほとんどの列車が京急本線に乗り入れて、都心方面と横浜方面に直通する。そのため本線のダイヤにも影響される。ラッシュ時などは本線の列車が増えるため、空港線直通列車を設定しにくい。羽田空港側に引上線があれば、そこに空港線内折り返し列車を留置し、必要なときだけ運行できる。
もう1つ、うがった見方をすれば、新空港線蒲蒲線)の京急乗り入れにも希望が持てる。引上線によって空港線の増発が可能になれば、その枠を新空港線からの直通列車に振り向けられる。新空港線は東急蒲田駅乗り換えの京急線案と、東急線を延伸して京急に直通する案がある。東急と京急軌間(レール間の広さ)が異なるけれど、これは青函トンネルのような三線軌間で解決できる。鉄道に限らず、技術的に解決できれば、あとはコストと時間と利害関係の問題である。
利害関係の問題としては、京急が新空港線に前向きではない。品川〜京急蒲田間の乗客を奪われかねないからだ。交通政策審議会が「羽田空港国内線ターミナル駅引上線の新設」を盛り込んだ。その本心は、新空港線の実現のため、京急にもメリットを出そうという深謀遠慮かもしれない。

財政的に京急が可能なら、今すぐにでもやってもらいたいわ。