騙しきれない結末

寝台特急カシオペア」が復活、次は東北・北海道新幹線の高速化だ
ITmedia ビジネスオンライン 4月8日(金)10時6分)


北海道新幹線開業関連で廃止のウソ
4月6日、JR東日本は「E26系『カシオペア』車両を使用した臨時列車を運転します」と題したプレスリリースを発表した。事実上の寝台特急カシオペア復活だ。
寝台特急カシオペア」は、東京〜札幌間を結ぶ夜行列車として1999年に誕生した。同区間を運行していた寝台特急北斗星」のグレードアップ版という位置付けだ。北斗星国鉄時代から使っていた客車をリフォームし、1970年代から1980年代にかけて社会現象にもなった「ブルートレインブーム」の面影を残す。これに対してカシオペアは、新型客車E26系を製造し、客室はすべてA寝台2人用個室、特に上野側最後尾は展望スイートを備え、「豪華寝台特急」と呼ばれた。その人気は北斗星とともに、最後まで衰えなかった。
北斗星廃止の主な理由は客車の老朽化だ。これは乗車してみれば納得できる。1970年代に製造された客車は車齢40年以上。客室内はきれいだったけれど、外板はゆがみ、錆(さび)も浮いていた。走行装置も傷んでいたことだろう。青函トンネルの新幹線対応工事で、北斗星カシオペアの同日運行は難しいという理由もあった。しかし、カシオペアのE26系客車は車齢17年。まだまだ現役。税法上の減価償却期間は20年である。在来線車両は30年から40年程度は使える。北斗星がその証拠だ。
カシオペアが廃止された理由は「北海道新幹線」と説明された。青函トンネル北海道新幹線が使用するため、貨物列車以外の在来線列車は廃止される。技術的な問題として、北海道新幹線は使用電圧が異なり、信号システムも変わる。従来、青函トンネルで使っていた電気機関車は使えない。運用面の問題として、高速な新幹線列車と在来線列車は相容れない。貨物列車と新幹線列車の共存だけでも大問題となっている中で、観光客向けの寝台特急の入る余地がない。
しかし、多少の技術をかじっている鉄道ファンとしては、この説明に納得しがたい。確かに新幹線と在来線は線路の規格が違う。これは一般常識でもある。しかし、青函トンネルは在来線貨物列車と共用するため、線路にレールを3本設置して、在来線と新幹線の両方に対応する。E26系客車も通行可能だ。電化規格と信号設備の問題は、JR貨物が新たに導入する電気機関車を借用すれば解決できる。
カシオペア、廃止も復活も理由は「やる気」と「手続き」
運用面で乗り入れが厳しいという理由も怪しい。北海道新幹線の時刻表が発表になった時点で、青函トンネルの当時の貨物列車と新幹線列車のダイヤを重ねたところ、下りのカシオペア北斗星が使っていた時間帯はぽっかり空いていた。上りのカシオペアは「はやて100号」と重なってしまうけれど、前後に30分程度変更すれば運行可能だ。
その後、JR東日本は2017年から運行開始するクルーズトレイン「トランスイート四季島」の北海道乗り入れを発表する。JR東日本青函トンネルの運用時間帯の隙間があると自ら証明して見せた。
結局、カシオペア廃止の理由は「機関車」であった。JR東日本青函トンネル対応の電気機関車を購入すれば運行可能。ただし、運行頻度が少ない列車のために、新幹線区間対応の高額な機関車を購入しても利益にならない。それは民間企業としては当然の判断だ。
では、JR貨物が導入する電気機関車を借用するというアイデアは当時からなかったか。いや、それはあったはずだ。日本を代表する鉄道会社のJR東日本が、素人の鉄道ファンでさえ分かる技術的な可能性に気付かないわけがない。それでも、JR貨物電気機関車を使えなかった理由は、国土交通省の意向だったと言われている。
JR貨物青函トンネル対応電気機関車の導入については、鉄道建設・運輸施設整備支援機構が支援している。同機構は北海道新幹線の建設主体である。機関車の購入費用、保安装置、研修基地の新設などで総額190億円以上。その2分の1を機構が助成金として交付。残り2分の1も機構が無利子で貸した。整備新幹線の建設業務の一環という解釈だ。
JR貨物としては、青函トンネルが新幹線化しなければ、自社の長期計画で機関車を更新できた。新幹線計画のおかげで巨額の機関車更新費用が必要となった。ならば新幹線の建設主体が助けましょう、というわけだ。これは理にかなっている。
ところが、この主旨に照らし合わせると、JR貨物の新型機関車に関する支援は貨物輸送を維持するためであって、JR東日本に貸し出すという「機関車のアルバイト」はまかりならん、となるのだ。国は国民の財産を運用してJR貨物を支援している。その支援額は最小限であるべき。他社に貸し出す余裕は認められない。
カシオペア廃止は、技術的な問題でも、運用面での問題でもなかった。貨物用の機関車は貨物列車しか使えない、という“タテマエの問題”だったのだ。
JR貨物の機関車を使ってカシオペアが復活する。そこに向けたやり取りは明らかにされていない。しかし、実現に向けたJR東日本JR北海道JR貨物の説得があってのことだろう。それはただ1点、「JR貨物の機関車について、運行する貨物列車がない時期に、JR東日本が借り受ける。JR貨物に相応の使用料を支払う。それはJR貨物の支援にもつながり、日本の鉄道貨物輸送の安定化に寄与する」だ。
この1点を突破し、国の担当者が納得した。それに尽きる。交渉担当者レベルから事案を上げて、決済責任者までの説得があってこそ実現した。カシオペアの運行は鉄道会社に利益をもたらすだけではない。国が注力する観光立国、国民の余暇開発、インバウンド支援など広範囲に寄与する。すべての関係者にとって英断だった。高く評価したい。
●タテマエを崩して高速化を
こうなると、次の期待はもう1つのタテマエだ。東北新幹線の高速化である。東北新幹線の盛岡〜新青森北海道新幹線新青森新函館北斗間の最高速度は時速260キロメートル。しかし、はやぶさに使われているE5系北海道新幹線はH5系)の最高運転速度は時速320キロメートル。その性能を盛岡以北では発揮できない。
なぜかと言うと、「整備新幹線の建設規格は時速260キロメートル」というタテマエがあるからだ。国民の税金を原資に建設する整備新幹線に、過剰な設備を与えられないという考えがあった。さらに、整備新幹線の計画時、東海道新幹線は時速210キロメートルだった。時速260キロメートルは、当時は先進的な規格だった。しかし、その後は技術の進歩が追い越し、時速300キロメートルを超える運行が可能になっている。
東海道新幹線は時速210キロメートルで設計されて、現在は時速285キロメートルで走っている。その後の車両の性能向上や、線路のメンテナンスと合わせた改良工事によって実現した。山陽新幹線も時速210キロメートルから時速300キロメートルに向上した。東北新幹線の盛岡以南は時速320キロメートルで走っている。これらは国鉄時代に作られた路線で、整備新幹線のタテマエが適用されていないからだ。車両の軽量化によって、線路が耐えられる速度が上がっていることも功を奏したと思われる。
もちろん、時速260キロメートルを前提に建設された線路で、そのまま時速320キロメートルというわけにはいかないだろう。線路が耐えられても、沿線の騒音対策などを再検討する必要はある。しかし、国鉄時代に建設した古い線路より、新しい線路のほうが低規格とは情けない話だ。技術的な可能であればすぐにでも高速化へ向けて動くべきだ。
2006年7月に北海道経済連合会が発表した「北海道新幹線幌延伸に伴う効果と地域の課題」という調査報告書によると、東北新幹線北海道新幹線で最高時速360キロメートルで運転した場合、東京〜新函館(現・新函館北斗)間は3時間12分となり、いわゆる「4時間の壁」をクリアできる。しかも東京〜札幌間も3時間57分だ。
時速360キロメートルは現在の水準を超えているとはいえ、当時、JR東日本の試験車両「FASTECH 360 S」は、営業運転速度として時速360キロメートルを想定し、2006年6月に最高時速405キロメートルを達成している。時速360キロメートルは実現可能な数字である。ただし、当時は青函トンネルの貨物列車共用による減速問題は取り沙汰されていなかった。そこは割り引いて考える必要はある。
その後、2014年には、JR東日本が新幹線を時速400キロメートルで走らせるため技術開発を進めていると報じられた。現在のアルミニウム合金より軽いマグネシウム合金製車体を使用し、低騒音台車によって環境基準をクリア、潤滑油、ブレーキなどの基礎研究も進める。2020年代後半に営業車両で時速400キロメートル運転を実現させたい考えだ。
北海道新幹線は赤字含み。JR北海道の負担は大きい。巨額の費用で作られ、札幌延伸が決まった北海道新幹線を活用するためにも、整備新幹線の時速260キロメートル制限は撤廃したい。国土交通省JRグループ、関係者の尽力に期待する。

もし、盛岡より北の第三セクター路線の乗り入れ収入がなくなることの問題がなかったら、JR東日本も復活には後ろ向きだったんじゃないだろうか。
青森県岩手県等関係自治体のご尽力には、鉄ヲタとして感謝したいところだ。