なつかしのニューホライゾン

英語教科書の「エレン先生」人気は出版元も想定外 なぜあのイラストが採用されたのか、そして初の試みとは
(ねとらぼ 4月8日(金)22時13分)


東京書籍の中学生向け英語教科書「NEW HORIZON」に登場するエレン先生がかわいい。2016年(平成28年)度版から刷新された教科書は、リニューアルに伴い登場キャラクターも入れ替わっており、よりアニメやマンガに寄せた、中学生にとってはなじみのあるイラストになっている。過去の英語教科書の挿絵とは一線を画しており、ネットでも話題だ。
ねとらぼの取材に対し同社担当者はイラストから「英語が苦手な生徒にも英語に興味をもってもらいたい」という思いはあるが、だからといってあまり「悪目立ちしないようにしたい」という葛藤もあったという。
新しくなった「NEW HORIZON」は、「未来につなぐ、世界につなぐ」をコンセプトに、習得や活用の発信だけでなく、人と文化と国をつなぐグルーバル化に対応することを目指して編集された。教科書は4年に一度刷新されることになっており、次のタイミングは2020年の東京オリンピックパラリンピック目前の年ということを意識。異文化や国際社会について触れ、自分の知識や視野を広げ、日本の伝統文化を見つめ直すという構成になっている。テーマとして浮世絵や落語、アニメ文化を扱っているのも特徴だ。
グローバル化の時代に英語教育の大切さがうたわれています。そのため、義務教育においては、全員の英語力を高めるためにさまざまな施策が行われています。全員といっても、生徒によって興味のあるなしということは出てきますので、できるだけ多くの生徒に学習しようという意欲を持ってほしいと思い、生徒に関心の高いタッチのイラストに変えることにしました」(担当者)
登場キャラクターは柔道部所属の安藤咲とサッカー部所属の伊藤光太を中心に、インド出身のディーパ・ミートラ、カナダ出身のアレックス・グリーンが登場。そしてかわいいと話題のALT(外国語指導助手)のエレン・ベーカー先生や咲の兄、光太の姉、ブラジルからの転校生のリカルドや同じくブラジルのサッカー部コーチ・パウロなどが脇を固めている。エレン先生はあまりの人気にTwitterのトレンドにもランクイン、すぐに「ピクシブ百科事典」や「ニコニコ大百科」にページが作成され、たちまち二次創作もネットにあふれた。
1年生から3年生までの間に、キャラクターが出会い、成長していく様がストーリー仕立てで展開。同じ国やテーマを別の側面から扱うなどの工夫もしているのだが、「NEW HORIZON」でははじめて過去に登場したキャラクターが成長した姿で描かれている。
例えば光太の姉の伊藤絵美は2つ前の「NEW HORIZON」に登場しており、成長してロンドンで働いているという設定。「こういったつながりを持たせることで、生徒たちにキャラクターを通して英語や異文化に興味を持ってもらいたい」という願いからだ。「親や兄弟、教師が今の英語はどうなっているのかと教科書を開いた時、ストーリーがつながっていると知ったら当時の授業や生徒のことを思い出してもらえるのではないか」という狙いもある。「長く使ってくださっている先生方は、こういう点に気づいてエピソードを語っていただけるかもしれないとひそかに思っています」と担当者。
新しい教科書のイラストを手がけたのは2011年に発売された「ミライ系NEW HORIZONでもう一度英語をやってみる:大人向け次世代型教科書」の挿絵も描いた電柱棒氏。過去の「NEW HORIZON」に登場したキャラクターが成長したらという架空のストーリーが展開されている。バンダイナムコエンターテインメント(当時はバンダイナムコゲームス)のアプリ「NEW HORIZON AR」と連動しており、ARキャラクターによるヒアリングも学べた。この時のイラストの評判がよく、「今の中学生にも人気のあるタッチということで今回の教科書でお願いすることに」なった。
「非常に丁寧に、また洋服に陰影をつけたり髪のつやを表現したり、細やかな表現をしてくださっていて、そのおかげで紙面が豊かになり、英文の内容をより深く味わうことができると感謝しています」 (担当者)
過去の登場人物が新しい教科書に関係しているという隠れた設定も、この次世代型教科書が少なからず影響している。ちなみに、昨年度まで使用されていた教科書に登場しているブラウン先生は任期を終えてボストンに帰国しており、エレン先生はその後任という設定。それが縁で2年生の時に咲がホームステイでブラウン先生の下へ訪れている。また、アレックス・グリーンは10年ほど前の教科書で英語教師だったグリーン先生の親戚という設定なんだとか。
アニメやマンガに寄せたことに担当者は「教育界全体の流れで日本文化としてアニメを推しているという背景もあるが、挿絵がきっかけで英語に興味を持ってもらえるのではないか」という期待を込めたと明かす。実際に授業で使用していくのはこれからなので「どういう使われ方をするのか、どう受け止められるのかは心配している」とのことだが今のところは好評とのこと。
ただ、「(イラストの)力が強いので、あまり目立って見えてはいけない」とことさらイラストを強調したり前より増やしたりしないよう細心の注意を払っているという。あくまで学校教材なので、イラスト単体が騒がれることは本意ではない。
「まだ学校では使われ始めたばかりですので、(エレン先生をはじめ、新しいキャラクターたちが)どのように受け止められているかが気になっている」と担当者。「前例のないことでもあり、学校現場での指導に支障がないようにと細かい点でできる限りの注意を払いました」と慎重だ。狙いどおりキャラクターに親近感を覚え、英語に興味を持ってもらえるのか。中学生にも人気のあるタッチのイラストに効果があれば、次の改訂の時も同様の路線になるかもしれない。

手が込んでいる、といいますか。
本来の目的と違う面白さを感じる。