802の曲がり角

洋楽専門ラジオ番組が相次ぎ終了 犯人は「若者の洋楽離れ」なのか?
(withnews 11月30日(月)7時0分)

10〜30代をコアターゲットに高い聴取率を誇る大阪のFM802で今年9月、2つの洋楽専門の音楽番組が終了し、話題になりました。「洋楽離れ」が声高に叫ばれる昨今、これもその余波なのでしょうか。海の向こうのホットなナンバーに出会える貴重な場として若者がこぞって耳を傾けた「ラジオの洋楽番組」。そのいまを探ってみました。
■大阪FM局の番組終了に惜しむ声
終了したのは、「SUNDAY SUNSET SUTDIO」と「JOY SQU―AIR」という番組です。前者は1970〜90年代の洋楽ヒットナンバーを、後者は最新の海外ヒットソングを中心に紹介する人気番組でした。特に「SUNDAY〜」は、1989年の開局から続く老舗の番組。惜しむ声は少なくありません。
音楽ソフト(CD、レコードなど)の生産額全体に占める邦楽・洋楽の比率は、少し前まで「8:2」が業界の常識でしたが、日本レコード協会の統計では、2010年にその洋楽が20%を切り、昨年は13%まで後退。金額ベースでも10年前の6割の落ち込みで、邦楽以上の深刻さです。今回の番組改編、マーケットの洋楽不振との関連を考えずにはいられません。
■「洋・邦の区別なく良い音楽を」
「いや、それは少し違います」。同局の編成部長山本剛志さんに改編の狙いをうかがったところ、そんな答えが返ってきました。
「海外ではテイラー・スウィフトや、ワンダイレクション、ブルーノ・マーズといった新世代のスターが次々現れ、日本でも若者の間ですごい人気ですよ」。確かにテイラーの今年5月の来日公演は、洋楽不振がうそのような盛り上がりぶり。よくよく考えれば、この10年で、洋楽アーティストが多数出演するロックフェスティバルが日本でも若者の音楽文化として定着しています。
山本さんはその点を踏まえた上で、注目すべきは、今の若い人たちの音楽を楽しむスタイルの変化だと言うのです。
「10〜30代の世代は、洋楽・邦楽を区別しません。両者の間に壁はないのです。『いいもの』『耳なじみのいい曲』を選ぶというシンプルな志向。テイラーも聞くけど、ワンオクロックや西野カナも楽しむんです。だから私たちも、両者を区別せず、近い将来ブレークする音楽を、関西のミュージックラバーにいち早く届けていこうと思います」。2つの後番組も音楽番組ですが、そこでは洋楽、邦楽ミックスさせて、流す方針です。
アメリカに憧れ、ラジオで情報収集
「確かに洋楽に対するとらえ方が、10〜30代と、それより上の世代とでびっくりするほど違いますね」
そう語るのは、ラジオ番組の制作を手がける「ヤング・スタッフ」代表取締役の大高英慈さんです。同社は、音楽評論家湯川れい子さんがDJを務め、1970〜80年代に人気を博した洋楽専門の音楽番組「全米トップ40」を制作したことで知られます。大高さん自身も当時、アシスタントディレクターとして現場の空気を吸った一人です。
同番組は、全米音楽チャートのカウントダウン番組「American Top 40」の原盤を空輸して放送。現地とほぼ同時に全米のヒットソングを流していました。リスナーは、合間に湯川さんが行う曲の解説やアーティストの紹介に、夢中で耳を傾けました。
「あの頃の若者は、ロケットを飛ばして月にいくとんでもない国、米国の文化に飢えていた。インターネットがない時代、米国の最新音楽事情をいち早く把握できる場として、絶大な支持を集めました」
■J−POP世代は洋楽コンプレックスがない?
あるレコード会社担当者は、そうした熱狂の根底には、洋楽という音楽文化への強い「憧れ」「崇拝」「特別感」があったと言います。「サウンド、演奏、レコーディング技術。当時、楽曲のクオリティーに明らかな差があり、邦楽は洋楽のモノマネというイメージまであった。『本場との差を知りたい』。そう思う人がラジオの周波数をこぞって合わせました」
そんな需要に局側も応えてきました。1960年代には、「S盤アワー」(文化放送)を筆頭に、洋楽新譜を紹介する番組が人気を博しましたし、70〜80年代は、音楽評論家の渋谷陽一さんや伊藤政則さんらが、個性豊かな解説と共に洋楽を紹介する番組が、存在感を高めます。現役女子大生が曜日ごとにDJを務める「ミスDJリクエストパレード」が一世風靡したのは80年代です。
この担当者は続けます。「しかし、時代が進む中で、日本のロックやポップスなどが実力を付け、『洋楽のモノマネ』という見方やイメージを打ち消していった。90年代には『J−POP』という言葉も生まれ、ミリオンヒットを次々と飛ばした」。人々の洋楽への特別な感情が薄まった分水嶺は、この頃ではないか、というわけです。
■中高年は回顧、若者には新鮮…洋楽リバイバル
では、ラジオの洋楽専門番組はなくなる運命かといえば、そうとも言えません。80年代に人気を集めた洋楽チャートTV番組「ベストヒットUSA」が03年に復活。この頃から、実は中高年層を中心に洋楽リバイバルブームが到来しているといいます。
ラジオでは、「全米トップ40」が、2010年にラジオ日本で復活。英語のみの放送で、その枠とは別に、DJ矢口清治さんが解説を付け加える日本語版も好評を博しています。NHK―FMでは、今年4月から70〜80年代の洋楽に特化したリクエスト番組「洋楽グロリアスデイズ」が始まりました。このほか同局では、97年から渋谷陽一さんが新旧アーティストの新譜を紹介、解説する「ワールドロックナウ」も続いています。
ヤング・スタッフの大高さんは想像します。「子育てや仕事に一段落付き、青春時代の音楽にいま一度向き合う時間が生まれたのでしょうか」
ビートルズの「抱きしめたい」、ビージーズの「恋のナイトフィーバー」、デュラン・デュランの「ザ・リフレックス」……。時代の風雪に耐え、今も歌い継がれる音楽。ある世代には青春時代にあびるように聴いた思い出のメロディーですが、一方で、若い世代にとってはまさに未知の音楽です。今月6日、ザ・ビートルズの初のミュージックビデオ集「ザ・ビートルズ1」が世界一斉に発売されましたが、そこで10、20代が新たにファンになる現象が生まれているのが顕著な例でしょう。そんな若者の関心を満たす場として、洋楽番組はなくなることはないのかもしれません。
■ラジオDJは「音楽の大海原」の航海士
とはいえ、昨今のインターネットの普及で、主に若い世代が、ラジオというメディアと距離を置く厳しい現実も存在します。特に今年、日本では、「アップルミュージック」「AWA」など、定額制のストリーミング聴き邦題サービスが相次いで参入。ネットにつないで、いつでもどこでも何百万曲を自由に楽しむスタイルが定着し始めました。
人々が音楽の大海原を自由に旅できる時代の到来。ラジオは対抗できるのでしょうか。
冒頭のFM802の山本さんはこう言います。
「ラジオには、『DJ』という大きな強みがあります。彼らが曲やアーティストにまつわるビハインドストーリーを高い熱量で語る。たとえリスナーが今まで何百回と聴いていた曲でも、そこに新しい発見や感動を与えることができますから」
はっとさせる選曲、曲にまつわる思わぬ裏話、知られざるミュージシャンのヒストリー……。何も考えずに聴くのも楽しいけれど、背景を知った上だと楽しさ倍増なのが音楽のまた面白いところ。違う言語で歌われる洋楽であれば、なおのこと。ラジオが優れた航海士として、この音楽の大航海時代で存在感を逆に高めていくのかもしれません。

うーん、そもそも音楽自体あんまり聞かれていない印象なので、変化は必要かと。