ときを超えて

1世紀以上前の瓶入り手紙を発見、最古記録か
あなたが孤島に置き去りにされた場合、助けを求めるメッセージを瓶に入れて海に流しても、誰かが助けに来てくれる可能性は非常に低い。その瓶が海岸に流れ着いて誰かに発見されるのに100年以上かかるかもしれないからだ。
マリアンネ・ヴィンクラー氏は、今年、ドイツのアムルム島の浜辺で古びた瓶を見つけた。瓶の中には1900年代初頭に書かれた葉書が入っていて、英国海洋生物学協会(MBA)のジョージ・パーカー・ビダー宛に返送してくれれば、謝礼として1シリングを進呈すると書かれていた。
MBAの広報担当であるガイ・ベイカー氏は、「私たちの記憶にあるかぎり、瓶まで戻ってきたことはありません。4月にこれが戻ってきたときにはびっくり仰天しました」と言う。
約400本の瓶は行方不明だが、ベイカー氏は、これらは「割れたりして永遠に失われたのでしょう」と言う。
ビダー氏(1863年 -1953年)はMBAの会長も務めた海洋生物学者で、今回漂着した瓶は、北海南部の底層流の動きを探るために彼が1904年から1906年にかけて重りをつけて海に流した1020本の瓶のうちの1本だ。
イカー氏によると、この実験で海に投入された葉書の約半数が返送されていて、今回のものを除くと、いちばん時間がかかったものでも約4年だったという。
■漂流物から海流を知る
科学研究のために物体や観測装置を海に投入する調査手法は昔からあり、道具は進化したものの、基本的な部分は今日も変わっていない。
テニスシューズからゴム製のアヒルのおもちゃ、数百万個のレゴブロックまで、さまざまな貨物船が思いがけず落とした物から海流を追跡できることもある。
2011年に日本を襲った巨大津波によって海に流出した漂流物からは、太平洋中央部の海流の理解が深まった。けれどもほとんどの場合、海流調査に用いる物体は意図的に海に投入されている。
現在、世界の海には表層海流や深層海流を調べるフロートと呼ばれる自動観測ロボットのネットワークが張りめぐらされていて、各国の大学や研究所や政府機関からなる国際研究チームによって管理されている。表層フロートは海流にのって世界の海を漂流しながら人工衛星と通信していて、研究者はフロートの位置と海水の温度や塩分濃度をほぼリアルタイムに入手できる。
マイアミ大学と米海洋大気局に所属する海洋学者のレネリス・ペレス氏によると、ビダー氏の時代には瓶を海に流した場所と瓶が漂着した場所の情報を得るのがやっとだったが、今日の科学者は、季節による海流の変化を月ごとに調べられるだけでなく、ハリケーンが通過した海域の海流の変化まで知ることができるという。
クリップス海洋研究所(米国サンディエゴ)の海洋学者ナタリー・ジルバーマン氏が参加するアルゴ計画では、約3900個の深層フロートを海に投入して、深さ1000〜2000mの海流を追跡している。
現在開発中の新しいフロートでは、6000mという深海の海流も調べられるようになるという。
■ギネスに申請中
ビダー氏の瓶とは違い、アルゴ計画をはじめとする地球規模の海流観測網のフロートは、ふつうは海岸には漂着しない。ジルバーマン氏の説明によると、フロートがバッテリー切れになると、浮上できずに海底に沈むように設計されているのだという。そのため、多くのフロートは海底で一生を終えるが、なかには漂流を続けるものや海岸に打ち上げられるものもある。
個々のフロートには電話番号が記されているので、発見者が電話をかければ、担当の研究所がフロートを回収するようになっている。
フロートを返却した人に謝礼が贈られることはあまりないが、ベイカー氏によると、MBAはヴィンクラー氏に1シリング硬貨と感謝状を贈ったそうだ。英国の1シリング硬貨は1971年に廃止されているため、インターネットオークションサイトeBayで落札した1シリング硬貨が贈られたという。
ビダー氏の瓶は、回収された最古の瓶入りメッセージとしてギネス世界記録に申請されている。ちなみに、現時点のギネスによる世界記録は、2013年にシェットランド諸島で漁網にかかった99年43日前の瓶である。
(ナショナル ジオグラフィック日本版 8月31日(月)5時30分)

タイムカプセルには使えるかもね・・・。