熱中症には牛乳を

熱中症対策>運動直後の牛乳摂取が暑さに強い体に
梅雨が明けると、いよいよ本格的な夏の到来です。最近は、ニュースで「熱中症に注意」「水分を取るのを忘れずに」と連発されます。子どもでさえ、ついつい外に出るのがおっくうになるでしょうし、大人の私たちならなおさらです。暑さに強い体をつくるにはどうしたらいいのでしょうか。高齢者に適した運動「インターバル速歩」の提唱者として国際的に知られる能勢博・信州大教授は、運動とある食品の組み合わせが効果的だと言います。話を聞いてみました。
◇暑さに強い体とは
私たちの体温は37℃付近に調節されています。ここでいう体温とは体の中心の温度で、厳密に言えば脳の温度です。この体温がわずか0.1℃上昇しただけで、私たちは暑いと感じ、皮膚の血流を増やし、皮膚表面から熱を放散させようとします。あるいは、汗をかいて皮膚表面から蒸発させ、体温が上がり過ぎないように調節します。すなわち皮膚の血管が広がりやすく血流が増えやすい人、汗をかきやすい人ほど、暑さに強いといえるのです。
◇運動直後の乳製品摂取がカギ
ではどのようにすれば、皮膚の血管が広がりやすく、汗をかきやすい体になるのでしょうか。答えは簡単。30〜60分間ややきつい運動をした直後に、糖質や乳たんぱく質を多く含む乳製品を取ればよいのです。例えば、牛乳ならコップ1〜2杯、牛乳の苦手な人はヨーグルト、チーズなどでも効果はあります。ただ、乳製品は一般に糖分の含有量が少ないので、一緒にクラッカー、蜂蜜などを取ることをおすすめします。糖質から合成されるエネルギー源が運動によって不足すると、筋肉が分解され、筋力が弱くなってしまうからです。1回の摂取量は糖質30グラム、乳たんぱく質10グラムを目安にしてください(病気にかかっている人は主治医に確認してください)。これを1〜2週間続ければ、グッと暑さに強い体になります。
私たちはこの「ややきつい運動」に「インターバル速歩」を勧めています。インターバル速歩とは、軽い会話ができる程度の速歩きで3分間歩き、3分間ゆっくり歩く、このセットを繰り返す運動法です。セットを1日5回以上、週4日以上繰り返すことが目標ですが、週末にまとめて行っても構いません。インターバル速歩を行うことで体力が10歳分ほど若返ることが科学的に証明されています。
インターバル速歩を行った後、乳製品を取ると暑さに強い体になるのはなぜか。それは血液量が増えるからです。運動習慣のない人の血液量は、体重の7%ですが、マラソン選手はその倍近くあります。血液量が増えると、心臓は多くの血液を皮膚に流すことができ、汗を作る汗腺にも汗の原料となる水分、電解質が行き渡り、汗をよくかけるのです。
◇血液量が増えるわけ
ではなぜ運動をすると血液量が増加し、さらに運動直後の乳製品がそれを促進するのでしょうか。運動の直後、肝臓ではアルブミンというたんぱく質の合成が進みます。そのタイミングで乳たんぱく質を取ると、それがアルブミンの原料となり、合成が促されます。合成されたアルブミンは血液中に放出されますが、分子のサイズが大きいため、血管の壁を越えて外に出ていきにくく、結果血液の浸透圧が上昇して血管外から水分を引き込み、血液量が増加します。ごく簡単に言うと、アルブミンの増加で血管内の血液が「濃い」状態になり、それを適正な薄さに戻すために、血管外から水分が入ってくる、そのため血液の量が増える、という仕組みです。
◇暑さに強い人は汗をかく量は少ない?
暑がりで太っている人は、汗かきでクーラーを効かせた部屋から出ようとしない、というイメージがあると思います。だから汗をかきやすくなることは、暑さに弱くなると思われるかもしれませんが、それは誤解です。暑さに弱い人は「暑い」と意識するレベルまで体温が上昇しないと皮膚の血管が拡張せず、汗をかけません。体温の上昇が進んだ分、かき始めると汗も多くなります。すなわち、「暑い、暑い」と言いながら汗をかいているのです。
一方、暑さに強い人は、体温が少し上がるだけで皮膚の血管が広がり、大量の血液を体の表面に流せます。このような人は「暑い」と意識する前に、熱を放散して体温を下げており、汗をかいたとしても体温が上昇していない分、うっすら皮膚表面をぬらす程度なのです。
毎日新聞 7月5日(日)10時30分)

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