気づくのが遅い

型通りはいらない…フジドラマ現場の本音
「第26回フジテレビヤングシナリオ大賞」の受賞者たち。左から2人目は大賞の倉光泰子さん
秋ドラマでは、視聴率5%台を記録した作品が現在までに6つもあり、ドラマ冬の時代が続いている。現状打破の光となるのが、これからを担うフレッシュな脚本家の登場だ。このほど発表された「第26回フジテレビヤングシナリオ大賞」は、コンクール初参戦のパート女性(31)が大賞を射止めた。同局では「どこかで見たような、セオリー通りの作品はもういらない」。個性発掘へ、ドラマ界の思いは切実だ。
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応募1807作の中から大賞に選ばれたのは、映画配給会社にパート勤務する倉光泰子さん(31)の「隣のレジの梅木さん」。昼はスーパー、夜はラーメン店で働く太めの女性が、妊娠発覚で人生の転機を迎える。ワケありの事情を抱えたレジ仲間や、恋人のトンデモ家族とのかかわりが生き生きと描かれ「鋭いセリフや、少しひねった表現で登場人物の抱えている問題を描き出し、この作者にしか書けないと思わせる個性が光る」と評価された。
審査委員長を務めたフジテレビドラマ制作センターの草ケ谷大輔プロデューサー(30)は「笑っちゃうくらいぶっ飛んでいる世界観の中に、共感できるポイントがちりばめられていた」。ブラックな妄想シーンなど「映像化しにくい」部分も多々あるというが「それも、型にはまっていない脚本の魅力」と歓迎している。背景にあるのは「作るものが型にはまっいることが、ドラマ界の現状を招いている」という強い思いだ。
実際、ドラマ界はずっとしんどい状況にある。民放各局は3カ月ごとにゴールデン帯だけで20本くらいの新作連ドラを送り出すが、視聴率が15%を超えるのは1、2本。2ケタでスタートしても、2週3週あたりでバタバタと1ケタに落ち込んでしまう。この秋ドラマでいえば、現時点で5%台を経験している作品が6つもある。視聴率と作品のクオリティーは必ずしも一致しないとはいえ、情熱を傾けて作った作品が「視聴率5%」で納得する制作者はいない。月9枠のプロデュースなどで実績を積んできた30歳の草ケ谷さんは「これからのドラマ界を僕たちと一緒にやっていける人材を、一刻も早く発掘していかないと」。
そもそも、コンクールに寄せられるシナリオ自体が型にはまり気味なのだという。「展開やキャラクターなど、ドラマのセオリーにならって書いてくる人が多い。どこかで見たもののまねごとなんですね」。ヤングシナリオ大賞では、例年最終選考で10作品に絞られるが、今回は8作品しか残らなかった。「いい作品が少なかったのではなく『普通はもういらない』という目線で落としていったら8作品が残ったということ」と明快だ。今回の大賞には、来年の応募者へのメッセージでもあるという。「この作品が大賞になるんだよ、セオリー通りに書いても大賞はとれないよ、というメッセージです」。
多くの脚本家志望たちが学ぶ、あらゆるシナリオ教室への注文でもあるようだ。以前、元受講生に話を聞いたことがあるが「思わぬ人が突然死ぬ場合、直前に夢を語っているようなキラキラしたシーンを入れると効果的」など、さまざまな定番テクニックを教えてくれるのだという。その手の“死亡フラグ”などの定形や「不良が捨て犬を抱き上げる」などの「型」が、制作現場にはもうノーサンキューなのかもしれない。
意外だったのは、シナリオ教室側も、実は同じもどかしさを抱えていたことだ。会場にいた大手の関係者は「最近の生徒たちは、いい子すぎる」と話す。「先生や同じクラスの人たちの反応を気にして、分かりやすいものや、受け入れやすいものにシフトしてしまう傾向がある。悪い人やマイナスイメージの人を描くのは『苦手なんです』と」。受講ほやほやの時は、みんな個性的だそうだ。「ただ、独り善がりで伝わらない。基本テクニックを身につけて伝わる楽しさを知るという段階には行けても、個性があってなおかつ伝わる、というもう1歩を乗り越えるのが大変なんです」。
今回大賞を受賞した倉光さんは、東京芸大大学院映像研究科出身。シナリオ専門で勉強していたわけではなく、ほぼ初めて仕上げた作品で初めて応募した。シナリオを読ませてもらったが、スーパーのレジという地味な舞台でぐいぐい読ませる世界観があって、手詰まりな人々がそれぞれのぶっ飛び方で1歩を踏み出していく姿が頼もしかった。確かに、美人でもない太めの女性が主人公という設定も型にはまらないし、ここでそんな妄想?という急ハンドルぶりなど、このシナリオがどんな映像作品に仕上がるのだろうと興味が沸いた。
草ケ谷さんは「シナリオを書く人はオリジナルの発想力を持っている。書きたいことが才能なわけで、そこをうまく育てていければ、ドラマ界も新しい流れができてくると思います」。
足元に目を向ければ、続編や、過去作品のリバイバルに忙しいフジテレビ自体がどこよりも型にはまっているという見方もできる。「そういうジレンマはある」とした上で「やっぱり新しいものを作っていきたい。今回はフジテレビが絶対やらないような冒険というか、チャレンジングな選考をした。発掘したい才能に今回巡り会えた気がするし、そう信じたい」。
大賞作品「隣のレジの梅木さん」は現在撮影中(キャストは今後発表)。12月21日深夜に放送予定。倉光さんは「すごい興奮しています。人生もがいている人に見てもらいたい」と話している。
(日刊スポーツ 11月29日(土)14時5分)

現場では思っていたとしても、それを表明するのが遅い。
型どおりというなら、ほかならぬフジテレビ自身が硬直化してんだから、無理もないでしょうに。