好み予知

脳信号で大衆の好みを予測、広告への応用も 米研究
近未来の企業は、広告や音楽、映画などの試験版を少数の試験者に見せて脳信号を観察し、大衆の反応を公開前に知り得ることが可能になる──29日の英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)に掲載された研究論文は、いわゆる「神経信号」に関する特異な実験の結果を示している。
研究は、コマーシャルやテレビ番組の試験版を少数のグループに見せて脳内の活動をスキャンすることで、より幅広い層の視聴者がどのような反応を示すかを予測できるとするものだ。研究者らは、「フォーカスグループ(情報収集目的で集められた対象グループ)」に対して政治的思想をテストすることにも応用できるとしている。
論文を発表した米スタンフォード大学Stanford University)のヤツェク・ドモショフスキー(Jacek Dmochowski)氏率いる研究チームは、19歳〜32歳までの被験者16人にテレビを視聴させ、脳信号を記録する実験を行った。
被験者には、米人気テレビシリーズ「ザ・ウオーキング・デッド(The Walking Dead)」の2010年のエピソードと、アメリカンフットボールの2012年と2013年のスーパーボウル(Super Bowl)で初めて放映された複数のコマーシャルを視聴させた。
実験では、脳波記録(EEG)センサーを被験者に装着して、脳内のさまざまな部位の電気的活動を観察。同時に脳血流の位置を特定して脳活動のマッピングを行う機能的磁気共鳴断層撮影法(fMRI)を用いて被験者の脳をスキャンした。
その結果、見ているものに対して被験者が完全に集中または「熱中」していることを示す強い相関関係が、脳信号のいくつかのパターンに存在することが分かった。
被験者の興味レベルは、より幅広い範囲の大衆が番組やコマーシャルに示した反応と一致した。大衆の反応は、マイクロブログツイッターTwitter)や米市場調査ニールセン(Nielsen)の視聴率順位などを基に評価したものだ。
もちろん、何かに集中することは必ずしも、それを好きか嫌いかを明示しているわけではないが、スーパーボウルのコマーシャルを用いた実験によって、有用な手掛かりが得られた。
■脳のパターン
通常、スーパーボウル中継時の莫大な費用をかけたコマーシャルについては、大衆がそれらの広告をどのように受け取ったかを調べるための徹底的な調査が行われる。
ドモショフスキー氏は、AFPの電子メール取材に「スーパーボウルの研究では、グループ内での神経反応の一致の度合いと特定の広告に対する支持率との間に強い関連性がみられた」と語る。
「これによって分かることは、一般的に、われわれが好む刺激への脳内の反応は、他人の反応とも類似しているということだ。そのため、少なくとも今回の実験では、神経反応の高いレベルの類似性を、そのコンテンツを『好んでいる』ことに置き換えることができるのではないだろうか。だが、われわれが(物事に対して)肯定的または否定的に関与している際、脳内で何が起きているかを完全に理解するには、さらなる研究を重ねる必要がある」
神経信号処理については、今後さらなる調整を重ねることで、大衆の反応を予測するための有用なツールになる可能性があるとドモショフスキー氏は指摘する。
現在、広く用いられているマーケティングの手法は、ターゲットとなる消費者を代表するように選ばれたグループに、新製品の試作品や政治的思想を含む新しいアイデアなどを試してもらうというものだ。
だがこの手法の欠点は、自己報告制であることや報告者の表現力不足、集団の圧力などによって、個々の反応が分かりにくくなる恐れがあることだ。そのため、脳から直接得られる情報は極めて貴重になる可能性がある。
ドモショフスキー氏は「この手法を最初に採用するのは、マーケティング企業になる可能性が高いだろう。この分野では、予測における小さな優位性が巨大な価値に変わる可能性があるから」と説明する。
「近い将来、新しい広告を試写するフォーカスグループの調査で、主観的な自己報告のほかに、脳信号の測定も同様に行われることが予想される」
同氏はまた「さらにもう一つの可能性は、音楽分野での活用だ。リスナーグループの神経反応を測定することで、特定の楽曲の様々なバーションを評価することができる」と述べ、「あるコンテンツに対しての大衆の反応を予測しようとする一般的な応用範囲であれば、この手法を通じて貴重な情報が得られるかもしれない」と続けた。
(AFP=時事 7月30日(水)12時52分)

好みを先回りされるのも、ありがたいようなそうでないような。