スーパーサブは似合わない

ヤンキースイチローを放出できない理由
ヤンキースイチロー外野手は、16日(日本時間17日)に行われたオープン戦(対ブレーブス)で「一番・右翼」で先発して、3打数2安打の結果を残した。第1打席では、若手注目株の相手先発、テヘランの直球を右越の二塁打。オープン戦初の長打を放つと、第2打席は、外へ落ちるカーブをバットの先で捉えて、右前打。今季初のマルチ安打を達成した。
「あの球をヒットゾーンに落とせるかどうか、引っ掛けて、一塁ゴロにするか、二塁ゴロにするか、それは僕の中では大きく違うので、感触として得るものはありました」
カウント2ストライク0ボールと追い込まれてから、75マイル(120キロ)のカーブを、すくいあげるように右前に落とした技ありの一打に、イチローは手応えを感じていた。
第3打席では、しぶとくフルカウントから四球を選び、二進後、暴投で三塁へ。バウンドの転がりを予測しての好判断に「思ったより(ボールが跳ねた位置が)近い側だったので、最終的にタイミングが縮まりましたけれど、あれくらいなら余裕でしょう」と自画自賛。オープン戦10試合目で、実戦感覚も研ぎすまされてきたようだった。
実は、この日、午前9時にクラブハウスがメディアにオープンとなった際、イチローの打順は二番だった。しかしながら、一番に入っていたエルズベリーが、試合前に右脹ら脛の張りを訴えて出場を回避したため、イチローが一番に昇格した。エルズベリーがドタキャンした試合で、イチローが存在感をアピールしたのは、いかにも、今季のイチローの“立ち位置”と、その真価を象徴する事象に思われる。ヤンキースが、イチロートレードに踏み切れていない背景は、まさに、そこにあるからだ。
昨オフ、宿敵レッドソックスの核弾頭だったエルズベリー、ベテランのベルトランを補強し、外野の層が厚くなったヤンキース。キャンプ前から、ジラルディ監督、キャッシュマンGMが語っていた外野布陣構想に、イチローの名前はなく、イチローは格付け上、“五番手”の扱いだった。先発構想からは外れ、事実上のベンチ扱いとなっていた。
オフの間は、ジャイアンツ、レッズなどとの間で、何度もイチローのトレード話が浮上したが、40歳の高齢と650万ドル(6億5000万円)の高額年俸で折り合いがつかず、春季キャンプを迎えたが、つい1週間前にも、ESPNのバスター・オルニー記者が、「イチローにはトレード拒否権がない」とフィリーズへのトレード話をツイッターつぶやくなど、その周辺は騒がしかった。確かにフィリーズは外野手が必要で、ブルペン補強を狙うヤンキースが、フィリーズのマイク・アダムスを交換要員として考えているという具体的な報道も出た。
だが、イチローを放出するには、肝心の外野のレギュラー候補が心もとない。エルズベリーは、「レギュラーシーズンなら出場していた」と、軽症であることを強調していたが、17日の敵地でのパイレーツ戦の遠征メンバーからも外れることが決まった。
ヤンキース陣営は、昨年、7年1億5300万ドル(約156億円)という巨額を投じて獲得した新右翼手の故障歴については敏感だ。レッドソックス時代から、パンチ力もあるシュアな打撃と、類い稀な走塁能力でメジャーを代表する一番打者となったエルズベリーだが、故障とは無縁ではない。2010年は脇腹痛で18試合しか出場できなかったし、2012年は、右肩痛で74試合しか出場していない。昨年は134試合に出場しているが、プレーオフ進出をかけた大事な9月に、16試合欠場した。
この故障歴を懸念すれば、“無事これ名馬なり”を地でいくイチローを、そう簡単に手放せないというのが、ヤンキースの事情なのである。
エルズベリーの欠場で、ここぞとばかり活躍したイチローは、4試合ぶりのヒットを放った試合後、「(ヒットがなかったのは)3試合ですか? 自分では数えてないからね」と、サラリ。オープン戦では結果より自分の感覚を磨くことが大事だと語っているイチローは、着々と開幕への準備を進めているようだ。
キャンプイン早々には、同じく外野のライバルとなるソリアーノが、インフルエンザでダウン。日ごろからコンディション管理に万全の注意を払い、しっかりと準備を続け、試合に出続けることに、ひとつの哲学を持つイチローだからこそ、こういうチームの危機に存在感を示す。これで、トレードが完全封印されたと考えるのは、早合点かもしれないが、シーズンが始まれば、案外、背番号「31」が先発に名前を連ねるケースが増えるのかもしれない。
(THE PAGE 3月17日(月)15時0分)

いずれにせよ、もっと見たい。