マグロ

海の弾丸、マグロが高速で泳げる秘密とは
産卵場所やエサを求めて大海を高速で回遊するマグロ。一説には時速160キロで泳ぐこともできるとさえ言われており、これほど高速で泳ぐためにマグロの身体には様々な仕組みが備わっている。
その一つはマグロの体形だ。典型的な流線形をしており、海水中を高速で泳いでも大きな抵抗を生じさせることはない。方向転換する時に使う胸びれ、腹びれ、背びれ(第1背びれ)は抵抗の原因になりかねないが、マグロの場合、身体にある溝や凹みに収納でき、抵抗を抑えられるようになっている。
高速で泳ぐと身体の周囲に生じる渦流によって抵抗が発生してしまう。そこで、マグロの第2背びれ、臀びれの後ろには、小離鰭(しょうりき)と呼ばれる三日月形の小さな突起があり、渦流を抑えて抵抗の発生を防いでいる。
さらに、尾びれの付け根には尾柄隆起縁(びへいりゅうきえん)と呼ばれる水平尾翼のようなふくらみがあり、高速で泳いだ際に身体を安定させられるようになっている。
■体温を高温に保って筋肉の活動を活性化!
このように抵抗を生じさせにくい身体を持っているマグロであるが、高速で泳ぐからには強い推進力が求められる。
一般的な魚が全身をくねらせて泳ぐのに対して、マグロは尾ひれを左右に振動させることによってのみ推進力を得られる。尾ひれの振動だけで高速遊泳を実現するのだから、当然、強い筋力が求められるが、そのためにマグロには筋肉活動を活性化できるよう、体温を高める仕組みが備わっている。
通常、魚の筋肉で生じた熱は、静脈を流れる血液に移行した後、呼吸に際してエラから体外に排出されてしまう。これでは動脈血は冷たくなり、筋肉の温度を上げることはできず、強い筋力を得ることは難しい。これに対して、マグロの血合筋では、温かい静脈と冷たい動脈が接する奇網(レーテミラブル)と呼ばれる組織を発達させてきた。
この奇網があるおかげで、静脈血の熱のほとんどはエラに運ばれる前に動脈血に伝わり、周囲の海水温よりも筋肉温を高く保つことができる。その結果、筋肉活動を促進して、強い推進力が得られるのだ。
また、クロマグロミナミマグロメバチ、ビンナガは、肝臓の表面にも奇網があり、内臓の温度を高めて、酵素やホルモンが活発に働く温度を保てるようになっている。ほ乳類や鳥類ほどの恒温性を持っているわけではないが、クロマグロが亜寒帯から熱帯まで分布できるのは、幅広い水温に対応できる体温調節機能を持っているからだろう。
■高い体温がマグロの身を劣化させる?!
ただし、この体温調節機能が、人間にとっては災いすることがあるようだ。
人間が釣り上げようとすると、当然、マグロは激しく暴れるため、筋肉の温度は普段よりも高まってしまう。するとマグロが持つ酵素が活性化してしまい、急速に筋肉中のタンパク質が変性する。こうした現象は漁業関係者から「ヤケ」と呼ばれ、最も嫌われる。生煮えのような身になって、食感はパサパサ。弾力が失われ、刺身としての商品価値はほとんどなくなるという。
そのため、ヤケが起こらないように、釣り上げたマグロは速やかに延髄を切断したり、急速に冷やされるが、それでもヤケを完全に防ぐことはなかなか難しい。しかも、魚体を見ただけではヤケが起こっているかどうかは判断しがたく、経験豊かな仲買人であっても身がヤケてしまったマグロを買ってしまうことがある。
大海を高速で回遊するために獲得した体温維持システムが肉質の劣化を引き起こすのは、なんとも残念な結果と言えるだろう。
(ナショナル ジオグラフィック日本版 3月14日(金)12時5分)

なかなかデリケートなマグロのお話、でした。
あ、なんかたべたくなってきた・・・