最近のヒット作がわからなくて

1億本を突破した新ジャンル『澄みきり』ヒットの理由
キリンビールが今年5月に発売した新ジャンル『キリン 澄みきり』の販売が好調だ。発売から3か月半経った8月末時点で、300万ケース(大瓶換算)を突破。2013年の販売予定数である470万ケース(同)の6割を超えており、今年最大のヒットとなる兆しが見えている。
『キリン 澄みきり』のヒットの要因は何か? 「当社の調べでは、『キリンじゃなくちゃつくれないものを、もう一度つくろう。』というコピーや、斬新なパッケージデザイン、広告などから、キリンの本気感を感じて、手に取っていただいているようです」とは、キリンビール広報部担当者の弁。
確かに、KATANA(刀)をコンセプトにしたというパッケージは、装飾が極力排され、洗練されている。高級感のある凛とした佇まいは、これまでのビール類のパッケージには感じられない高い完成度を誇っている。広告も、「怒られてると思うのか、教わってると思うのかは自分次第だ。」などといった、豊川悦司扮する「澄みきり武将」の心に響くセリフが印象的なテレビCMを積極展開。印象的なテレビCMによって若年層を中心に広く認知されるようになった。
しかし、ヒット商品に育つには、コピーやパッケージ、広告だけでなく、おいしさも不可欠なはずである。「新ジャンル商品を飲用されているお客様の4分の1は、味に満足されていないことが当社の調べでわかりました。お客様の新ジャンルに対する不満を払拭する商品を実現するため、キリンの経験や技術のすべてを結集し、これまでの新ジャンルの常識を覆すような味わいを目指しました」(キリンビール広報部担当者)。
新ジャンルの価値を底上げするような味わいを目指すため、妥協せず本気で取り組んだということだ。そこで、今回、『キリン 澄みきり』のヒットの要因を味の面から探ることに。AISSY(アイシー)の代表取締役社長、鈴木隆一氏に味覚分析を依頼し、科学のメスを入れることにした。
AISSYは慶応義塾大学発のベンチャー企業で、2008年に創業。味覚分析や味覚に関する研究を行なっている。主力事業の味覚分析では、慶大が開発し特許を取得した味覚センサーを用い、食品の基本五味(甘味、塩味、酸味、苦味、旨味)を数値化する。味覚センサーとは、人間が味を感じ取る舌と、脳に伝達し味を認識するニューロン神経細胞)を再現したもので、センサーで測定した数値をニューラルネットワークという解析を担うソフトで基本五味に変換する仕組みになっている。人間とほぼ同じように、基本五味を感じて認識するのが最大の特長となっている。
今回、この味覚センサーを使い、『キリン 澄みきり』と他社の新ジャンル、計4品の味覚分析を行なった。分析の結果わかったことは、「コク」と「キレ」という相反する要素が両立していることだった。『キリン 澄みきり』は「コク」「キレ」ともに、4品のなかでトップの値を記録したのだ。
分析を担当した鈴木氏は、分析結果を次のように評する。
「ビール系飲料は大きく分けて、コク系とキレ系に分かれますが、『キリン 澄みきり』はコクがありながらキレもいいのが特長。国内メーカーから市販されているビール系飲料としては特殊で、驚きました」
コクのあるビール系飲料は苦味が強く、時間が経っても苦味が緩やかにしか減らないため、飲み終わった後も余韻が残る。一方、キレのあるビール系飲料は酸味が強く苦味はそれほどでもないが、急速に苦味が減り、余韻が残りづらく鋭い飲み味になる。コク系とキレ系ではこのように異なる特性を持っているわけだが、『キリン 澄みきり』は苦味が強く、なおかつ急速に苦味が減るという、コク系とキレ系の両方の特性を併せ持っている。
分析では、『キリン 澄みきり』の酸味、苦味はともに強めの数値が出たが、4品の中で一番高かったわけではない。とはいえ、「酸味と苦味のバランスがよく、旨味もあるので、コクが強く、それでいてキレもある味に仕上がったのではないかと思われます」(鈴木氏)。味覚センサーでの分析後に行なった試飲でも、鈴木氏はコクとキレの両方を感じ、分析結果通りの印象を持ったという。
コクとキレを両立した『キリン 澄みきり』は、コク派、キレ派の両方のニーズを満たすおいしさを持っており、非常に高い完成度を誇っているといえる。人間の味覚は変わるものなので、コク派がキレを求める、あるいはキレ派がコクを求めるときも、両者のニーズが満たせることになる。両者の支持が得られるおいしさも、ヒットの要因になっているといえそうだ。
この裏では、キリンビールが持っているビールづくりのノウハウが最大限活用されているはず。鈴木氏も同様の見解を示す。
「コクがあると味が強く、余韻が残りやすい。そういうビール系飲料は、そもそもキレを出すのが難しいものですが、『キリン 澄みきり』は、酸味が強いと苦味が落ちるといった、味の相互作用が働いていることが考えられます。人間はネオフィリック(新しもの好き)だからこそ、いろいろなものを進化させることができたので、おそらく、原材料の配合や副原料の使い方、発酵、など製造面でいろいろ工夫されていると思われます」
また、今回の味覚分析では、新ジャンルはビールと遜色ないことも明らかになった。製造技術が向上したことにより、新ジャンルとビールの壁がなくなりはじめている。
(@DIME 9月14日(土)13時2分)

逆に、本来の麦酒の価値が問われてくるというのか。