バブルとゆとり

<バブル世代>ドラマ「半沢直樹」ではヒーローだが トホホな現実
「やられたらやり返す。倍返しだ」。視聴率20%を超えるドラマ「半沢直樹」(TBS系、日曜午後9時)で堺雅人さん演じる主人公の決めぜりふだ。お堅い銀行員でありながら社内の理不尽に立ち向かうヒーローの設定は「バブル入行組の中間管理職」。あれ? バブル世代ってそんなにカッコよかったっけ。現実世界の半沢たちを追った。
大手生命保険会社の課長補佐を務める男性(45)が上層部からの冷ややかな視線に気付いたのは最近のことだ。自分を含む中間管理職に対して突然、難関で知られる資格試験に合格するようにとのノルマが課せられたのだ。資格を取れないと降格処分もある。「降格させられた管理職は退職に追い込まれる」。そんなうわさが飛び交った。
「ああ始まったなと思いましたよ。僕らのようなバブル入社組は人数が多く、全員のポストを確保して給料を上げていくのは不可能。ちやほやされて会社に入った世代だから、選別してプライドを打ち砕けばリストラしやすくなると考えたのでしょう」。男性は力なく苦笑する。
大学4年の春には、1部上場企業に入ったサークルの先輩たちから次々に高級レストランに呼びだされ、コース料理に舌鼓を打ちながら熱心に入社を勧められた。「顧客の人生に深く関われる」と口説かれ生保を選んだが、すぐにバブルがはじけた。外資系生保の猛烈な追い上げもあって業績は急降下。気がつけば、きついノルマとコストカットに追われるだけのサラリーマン人生を送っていた。
ショックだったのは、心の病になって休職中の部下が陰で男性を「バブル脳」と呼んでいたことだ。「楽観的でイケイケドンドン、成績アップばかり目指していると。それって営業マンなら当然じゃないですか。まさか部下を苦しめていたなんて……」
「俺って会社のお荷物なのか」と嘆く日々だ。
バブル世代の定義には諸説あるが、おおむね日本が好景気と株高に沸いた1980年代後半から92年にかけて大学を出て就職した人々を指す。男性がモテモテの就活を振り返ったように、当時は大量採用が続く空前の売り手市場だった。
だが、そのバブル世代も今や企業の中核になり、上司と部下の双方から情け容赦ない視線を浴びている。
東京都内の企業で広報を担当する女性(37)は、仕事でバブル世代の上司と組むことになると「トランプのババ抜きでババを引いた気分」になる。お金の計算に疎く、急いでもいないのに移動はタクシー、とにかく金遣いが荒いのが特徴だ。「芸能人を呼んで宣伝イベントをしたことがあるのですが、上司がやった事前の見積もりが雑過ぎて予算を大幅にオーバー、私まで一緒に会社の偉い人に謝りに行かされちゃって。経費が使い放題だった頃の余韻を引きずっているのでしょうが、こっちはいい迷惑。同期が集まるたびに『またバブルと仕事だよ』『大変だね』なんて慰め合っています」
自身は「狭き門」に泣かされた就職氷河期世代。決してバブル世代を毛嫌いしているわけではない。「皆さん、おおらかだし人はいい。でも仕事だけは一緒にしたくありません。こりごりです」
バブル世代のサラリーマンにはどんな特徴があるのだろうか。
ビジネス情報サイト「ダイヤモンド・オンライン」で世代間ギャップを取り上げた「バブルさんとゆとりちゃん」を連載中のライター、梅田カズヒコさん(32)は20人以上を取材した経験から次の四つを挙げる。
(1)会社第一、仕事第一でエネルギッシュに働く。
(2)楽観的で後先の心配をしない。消費意欲が高いと言われるのはそのせい。
(3)見えっぱり。言い換えればプライドが高く、他の世代に煙たがられるほど。
(4)男らしさ、女らしさにこだわる最後の世代。
氷河期世代の梅田さんが解説する。「低成長期に入って社会人になった僕らは仕事と私生活のバランスを重視しますが、バブル世代の人たちはいまだに会社至上主義で終身雇用を信じている。同期入社が多いので競争心は盛ん。女性に実力以上の高価なプレゼントをしたがるのも(2)(3)(4)に加えて『ライバルに負けたくない』との思いからです」
ただ、いかにエネルギッシュでプライドが高くても、経営という非情の論理の前では「まな板の上のコイ」だ。
「企業は、余剰感のあるバブル社員対策に目を向け始めています」。そう指摘するのは人事コンサルティング会社「マンパワーグループ」ライトマネジメント事業本部のシニアコンサルタント町田健さん(46)だ。2007年に始まった団塊世代の大量退職の対応に追われた企業が、やはり大量採用されたバブル世代対策の必要性に気付いたというのだ。要するにリストラ対象ということでは?
「いえ、大半の企業は会社員として脂の乗り切ったバブル世代を重要な戦力と考えていますよ。一方でポスト数が限られているのは事実。そこで一部の企業は、経営中枢を歩むマネジメント系社員と専門性に優れたエキスパート系社員の処遇の差をなくし、ポストを与えられなかった社員には代わりに活躍の場を与えるといった人事制度改革に乗り出しているのです」
管理職か、専門職か。難しい選択には違いない。「そう、これからバブル世代は自らを見つめ直し、どう働くかについて信念を持つ必要に迫られますよ。そこを先取りして、信念を貫けと伝えているのが『半沢直樹』ではないでしょうか」
実は記者も対象ぎりぎりの92年入社組。組織の一人として今後どう生きるか。悩めるバブル世代へのアドバイスを尋ねたいと思う人がいた。東レ経営研究所特別顧問の佐々木常夫さん(68)。入退院を繰り返す妻の世話、自閉症の長男を含む3人の子育てを担いながらも東レ本社の取締役を務めた。「40代半ばといえば僕は課長、部下十数人の能力を最大限に発揮させようと張り切っていた。会社員人生で最も面白かった時期」と振り返ったうえで、こう語った。「ポスト不足で左遷されたとしても腐らず自己を磨こう。僕にも経験があるが、人は試練があるからこそ磨かれ、成長するのだから」
大丈夫、なんとかなる。これもバブル世代の口癖?
◇ドラマ「半沢直樹」とは
主人公、半沢直樹は銀行支店の融資課長。ある日、支店長から強引に融資の実行を迫られるが、融資先はすぐに倒産。5億円の焦げ付きの全責任を押し付けられた半沢の生き残りをかけた反撃が始まる。相手が上司であろうと筋を曲げず、社内外の敵を追い詰める型破りのバンカーの活躍を描く。共演は香川照之さん、上戸彩さんら。原作は元銀行員の直木賞作家、池井戸潤さんの「オレたちバブル入行組」「オレたち花のバブル組」の2作。
毎日新聞 7月30日(火)17時14分)

現実はそんなカッコイイもんじゃないってことですよね。
月9ドラマで、安月給なのに東京の真ん中であんな生活できるわけないのに、「あんなことができちゃうのが東京」と錯覚したバブル全盛期と同じです。