北極ビジネス

北極海で夏に氷が消失するのは何年後か
大自然のことを正確に予測するのは科学の力では難しい。日々の天気予報がときおり外れるのもそのためだ。気温や海氷の被覆率などの予測に取り組む研究者もいるが、これらはさらに不確定な要素が多い。
しかし、地球の気候が今後、自然の力や人間の引き起こした変化によってどのように影響を受けるか予測しておくことは、各国政府や産業界にとって重要な課題である。
特に大きな“賭け”の対象となっているのが北極だ。地下資源と生物多様性のために、この地域には大きな経済的魅力がある。海氷の減少で航行が容易になっていることから、各国が開発に乗り出して、さながら現代のゴールドラッシュの様相を呈している。
北極海では将来、夏場は氷が消失するようになると考えられており、それが何年後のことになるか、専門家は長年研究を続けてきた。温室効果ガスの排出量が高い場合、海氷の消失の時期は試算によって2011〜2098年と、ばらつきが大きい。
これほど不確定なのは、地球の大気と海洋が複雑に影響し合っていることと、そのプロセスがまだ十分に解明されていないことによる部分が大きい、とニューヨーク州立大学オールバニ校の海氷研究者リュー・ジーピン(Jiping Liu)氏は言う。
リュー氏はこのほど発表した論文で、従来の予測の幅を大きく狭め、現状の気候モデルに基づくならば、北極海の海氷が夏場に完全になくなるのは2054〜58年のことであるとした。
「これらの気候モデルも完璧でないことは分かっている。(それでも)予測にはこれらに頼らざるを得ない」とリュー氏は言う。
◆さまざまな不確定要素
海氷のモデリングにはさまざまな不確定要素が含まれるとリュー氏は言う。たとえば、太平洋と大西洋から北極海流入してくる暖かな海水の量は増えているが、それがどの程度、海氷に影響するかは分かっていない。
海氷の基底部は、わずか0.1〜0.2度程度の水温の上昇にも大きな影響を受けるとリュー氏は言う。
それゆえ現在の気候モデルでは、夏場の北極海の氷の減少が、実際よりも控えめに見積もられている可能性があるとリュー氏は言う。そう考えると「北極海の氷がなくなるのはもっと早い時期かもしれない」。
また、太陽光がどの程度、海氷を透過してその下の海水まで到達するかも不明だとリュー氏は説明する。氷が厚ければ太陽光は遮られ、海水温の上昇にはつながらないが、氷が薄くなれば光が通り抜けてしまう。現在の気候モデルは、このプロセスを正確に反映したものではないとリュー氏は言う。
何より、海氷の被覆率変化のうち、どの程度が自然な気候変動によるもので、どの程度が地球温暖化などの外的な要因の影響を受けたものなのかを判断することは難しい。
「私の立場では、海氷の減少の50〜70%はおそらく(大気中の)温室効果ガスの増加によるものだ」とリュー氏は言うが、この数値がかなり幅広く取られたもので、将来的にもっと特定する必要があることは本人も認めている。
◆気候モデルはそれなりに有効だが
アメリカ国立雪氷データセンター(NSIDC)の海氷研究者ジュリエンヌ・ストローブ(Julienne Stroeve)氏も、気候モデルが完全ではないことを認めている。それでもこれらのモデルは、温室効果ガスの排出量の予測に応じて、それぞれの地域がどう変化するかの見通しを立てるには十分なものだとストローブ氏は言う。
「どのモデルも、北極はほかの地域と比較して特に温暖化が進むとの見通しを示している」とストローブ氏は言う。ただし、これらのモデルで海氷の減少量を試算しても、実際の観測結果より控えめな数値しか得られていない。
リュー氏が今回の研究で使用しているのは、いずれも地球全体を対象とした非常に大雑把な気候モデルで、より詳細なデータは含まれていないとストローブ氏は指摘する。たとえばボーフォート地域の海氷の推移について知りたければ、それに影響を与えるボーフォート海の海洋循環などといった詳細なデータが必要になる。
海氷の割れ目の増加や、メルトポンドと呼ばれる海氷表面の水たまりの出現なども、小規模なプロセスとは言えないとストローブ氏は指摘する。いずれも海氷の融解を促進する可能性があり、無視できるものではない。
また日々の天気も北極海の氷に大きな影響を与えているが、「私たちには天気を占うことはできない」とストローブ氏は言う。
将来、北極海の氷が夏に消失する可能性自体は、ストローブ氏も十分に起こりうるシナリオであると認めている。だが、もし気温の低い時期が続けば「氷が再び出現するだろうことは、これらのモデルでも示されている」とストローブ氏は言う。
「私の考えでは、これらのモデルは将来何が起こるかを考える上では役に立つが、北極海で夏に氷が消失する正確な時期を割り出すのに十分なものではない」とストローブ氏は話している。
Jane J. Lee for National Geographic News
ナショナルジオグラフィック式日本語サイト 7月17日(水)14時13分)

そう遠くない将来、たぶん北極の氷は解ける。
やがて、日本の一部も水没する。
東京とて例外ではない。
ま、そういうことだ。