急がば歩け?!

急ぐとき、なぜずっと走らないのか?
1時間に1本しかない急行に乗るためバス停へ向かう。あるいは、友人と待ち合わせたレストランや予約した病院へ行く。距離は数百メートルほどだが、遅れそうで焦っている・・・。そんなとき、たいていの人は走り始めるだろう。しかし、しばらくすると立ち止まり、少し歩いてから、また走り始めた経験はないだろうか。
ここで疑問が浮かぶ。全部走った方が効率的では? 最新の研究によると、そうとも限らないようだ。
アメリカ、オハイオ州立大学の機械工学者マノジュ・スリニバサン(Manoj Srinivasan)氏は、「人は目的地に向かうとき、無意識に歩行と走行を組み合わせている」という仮説を検証した。「エネルギー消費を最小限に抑える方法で移動しているのではないかと考えた」と同氏は話す。
スリニバサン氏は36人の被験者に、フットボール場の長辺よりやや長い120メートルの距離を進むよう依頼。ゴールまでの期限を設定し、ストップウォッチを渡した。すると、時間に余裕がない人は走り、2分ある人は歩いた。期限が中間の人は、歩行と走行を切り替えながら進んだという。
スリニバサン氏は実験結果から、「人は移動しながら、目的地までの距離に対する自分の感覚に基づいて、歩行と走行をうまく調節している。あらかじめ決めておくのではない」という結論を導き出した。
◆“トワイライトゾーン”に最良のテクニック
「歩行と走行の組み合わせは、中程度の時間がある場合に適している。すぐに到着する必要はないが、時間が無限にあるわけでもない。この時間帯を“トワイライトゾーン”と名付けた」と同氏は説明する。
この“モード切り替え”能力は、古代の人類に役立ったはずだ。「基本的には進化論上のテーマだ」とスリニバサン氏は話す。「先史時代の人類は食料を探すとき、エネルギーを温存しながら移動する必要があった。獲物がなかなか見つからず疲れた場合でも、捕食動物から逃げられるように。」
ただし今回の研究では、調節の詳しいメカニズムについては解明されていない。
◆市民ランナーは適度に休息を
歩行と走行の併用は市民ランナーによく見られる手法だ。ときどき走るのを止めて少し歩き、またジョギングのペースを再開すれば、42.195キロの苦痛はいくらか軽減されるだろう。「全体的なエネルギーを節約し、休みを取ることもできる」とスリニバサン氏は語る。
今回の研究からいくつかのヒントが得られそうだ。まず、ランナーは無理しすぎないこと。歩行と走行を組み合わせれば、消費エネルギーを最小限に抑えられる。
また、親子で散歩中に、子どもがしだいに遅れ、走って追いつくという動作を繰り返した場合、それは親を困らせようとしているわけではない。歩行と走行を切り替える人類の本能の現れと見るべきだ。
さらに、義肢製作への活用も期待できる。「人はエネルギー消費を最小限に抑える方法で自然に移動している」という知識は、より自然な感覚でエネルギーを節約できる義肢の開発に役立つだろう。
さて、歩行と走行の理論を打ち立てたマノジュ・スリニバサン氏自身は、どこかに急ぐときに意識的に走行と歩行を切り換えているのだろうか? 「正直に言うと、違うんだ。どこかへ向かうときには、身体にまかせている。」しかし大急ぎのときには、猛然とダッシュするそうだ。

研究の詳細は、「Journal of the Royal Society Interface」誌オンライン版に1月30日付けで発表された。
Marc Silver for National Geographic News
ナショナルジオグラフィック式日本語サイト 2月10日(火)13時27分)

「常時全力疾走」で動いているわけ、ないもんねぇ。