陥落寸前

花巻東・大谷をグラリとさせた日本ハムの「北風と太陽作戦」
日本ハムは26日、岩手県奥州市栗山英樹監督(51)が初めて同席した上で、ドラフト1位指名した花巻東高の大谷翔平投手(18)と入団交渉を行った。米大リーグ挑戦の意思が固いとみられた大谷だったが、栗山監督のソフトムードに気持ちはグラグラ。160キロ右腕の気持ちを揺さぶった日本ハムの高等戦術とは、いかなるものだったのか。 
まさかの強行指名から約1カ月。難攻不落と思われた大谷が、完落ち寸前だ。
「情熱的な方で、球団や日本のプロ野球のよさを伝えてくれました。自分が考える上での判断材料をくださった。」
交渉約50分。大谷の表情が緩んで見えたのは気のせいか。10月25日のドラフト当日、「自分自身の考えとしては、(日本ハム入団の可能性は)ゼロです」という固い表情での返答からは、間違いなく先に進んでいた。
日本ハム側が最初に交渉を持ったのは今月10日。本人は同席せず、独自の資料を持ち込んで両親の説得に当たった。「大谷翔平君 夢への道しるべ」と題した全30ページの資料は、アマ野球から直接メジャーに挑戦する選手が多い韓国の事例を分析したものだ。
2006年、高校トップクラスだった選手がレンジャーズとマイナー契約したものの結果を残せず、今春のキャンプで日本ハムのテストを受けたが不合格となったことや、有望選手がほとんど活躍していない現状を説明している。
いわば「高卒で渡米して、すぐに活躍できるほどメジャーは甘くない」という厳しいメッセージだ。しかし、この日の栗山監督は“真逆”の攻め方だった。
「翻意をしにきたのではない。18歳の夢をどうやったら手伝えるのかという話」「ウチへの入団ではなく、夢をかなえるためのひとつの方法論」と、完全なソフト路線に転換したのだ。
前回の交渉が『北風』なら、今回は『太陽』とでもいうべき高等な作戦である。
実際に日本ハム側の仕掛けた通り、大谷は「(監督に確認したかったのは)日本ハムのチームのカラーや特徴。韓国の選手なんかの例もあったので、その部分を聞きたかった」と、完全に作戦に引き込まれている。
確かに、栗山監督のキャラクターは適任だった。引退後はスポーツキャスターのかたわら、白鴎大経営学部教授として教壇に立つなど、弁舌さわやかで武骨な野球人とはイメージが異なる。球団の資料で「怖さ」をたっぷりと吹き込まれた後、優しく語りかけられたら18歳の純朴な少年の気持ちがグラリと揺れるのも無理はない。
当初からメジャー挑戦には否定的だった父、徹さん(50)も「監督というより、一野球選手のために進路を一緒になって親身に考えてくれた」と感激の面持ちで、すっかり外堀は埋まっている。
そもそも、日本ハムが大谷の強行指名を表明したこと自体が異例だった。昨季は、巨人の一本釣り確実とみられた菅野智之投手(東海大)を強行指名して失敗。今年もダメなら、2年連続で1位指名を捨てることにもなりかねない。そのため、球界では「何か秘策があるのではないか」という声もあった。
それが今回の作戦かどうか定かではない。ただ、大谷に「悩んでいた時期もあったが、わざわざ来ていただいてすごくいい話が聞けた」「そういう道(プロ野球経由でメジャー)もあるんだと、熱意をもって伝えていただいた」と言わしめただけでも成果はあったのかもしれない。「日本ハムさんにも、アメリカ側にも迷惑を掛けるので、本人が考え、近いうちに結論を出す」(徹さん)として、最後の交渉は終了。18歳が意志を貫くのか、日本ハムの作戦は功を奏するのか。早ければ12月上旬にも決着する。
夕刊フジ - 11月28日(水)16時56分)

うまいなぁ(笑)