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グリーンランドに中国人5000人!?
北京の一隅で、誰かこんな会話を耳にしなかっただろうか。「グリーンランドで氷が溶け、資源が大量に見つかり始めた。ダイヤモンド、金から鉄鉱石、石油、厖大な量のミネラル・アースまである。未開発の沃土だ。」
◆金、ダイヤ、石油となんでもありの沃土
「人口は5万7000人を切る。そのうちイヌイットの比率が9割弱という。宗主国デンマークの手を次第に離れ、2009年以来自治領だ。いずれ独立国になるつもりらしい。そして地下資源は既に自治領の管轄になった」「だったら中国のカネで、丸ごと取り込んでしまえないだろうか。まずは労働者を中国から送り込もう」とそんな、絵に画いたような話があったかは兎も角、事実としてグリーンランドの側に中国マネーを当てにする気持ちがあれば、英米資本の有力企業を表に立てつつ千人単位で中国人労働者を送る案も囁かれる。グリーンランド自然保護団体「ヌークフィヨルドの友人(Nuuk-fjordens venne)」は既に身構え、持ち込まれるディーゼル発電機などの環境負荷を案じる。
グリーンランドデンマークから、邦貨にして年額約485億円(10年実績)の補助金を貰っている。次第に減額する予定で、自治政府としては埋め合わせを図りたい。それを北京に期待するかに示唆したのが、イェンス・フレデリスケンという自治政府の運輸部長だ。12年の6月、同氏はデンマーク紙に「中国側と協力していけない理由がわからない」と語った。
英国の首都に、ロンドン・マイニングという新興資源会社がある。創業は05年。鉄鋼メーカーだけを顧客とし、鉄鉱石と粘結炭の探査を専業とする。ノルウェーオスロ証券市場とロンドンの新興企業向け市場に株式を公開している。持ち株比率3%以上の株主には有名ファンドが名を列ね、一見したところ資本構成に格別の特徴はない。
◆ロンドン・マイニングというナゾの会社
リオ・ティントBHPビリトンなど資源大手の出身者たちが作ったらしいこの会社はしかし、開示情報にその証拠を見出すのは難しいのに、何かにつけ中国との関係が言挙げされる。北京の意向を汲んで動くあたかもフロント企業であるかに――「中国がコントロールする」とか「中国のカネで動く」などと――言われてきた。
グリーンランド自治政府鉱物石油局が12年9月1日付で発表した探査権授与先企業のリストには、確かにロンドン・マイニングの名が見える。グリーンランド西部、イスカシアという永久凍土が始まる辺りに賦存する厖大な鉄鉱石を露天掘りしようという計画だ。掘った石をペレットという塊にするには確かに発電機が要るし、最も近い不凍港まで輸送するにも、100キロに及ぶパイプラインを敷かねばならない。
経費を下げるため中国人労働者を使うのではないかと、噂がしきりだ。ロンドン・マイニングはグリーンランド最低賃金以下では雇わないなど約束したようだが、人口希薄な地だけに外国人労働力は必須と目される。それがいずれにせよ、中国人になると信じられているようなのである。
さらには米アルコア。アルミニウム生産加工で世界有数の同社は、グリーンランドの豊富な水力で起こす安い電気を当て込み、同地に大規模精錬所をつくる計画をもつ。その建設に、中国人労働者を3000人も送り込む計画があるとの報道を散見する。右の両事業に例えば5000人の中国人が労働者として入れば、それだけで人口の1割近くを占めかねない。
中国は事態がどう推移しても発言権を確保するためか、地域秩序を決める多国間協議体・北極評議会で正式オブザーバー資格を得るため、デンマークへの接近にも余念がない。12年6月には胡錦濤国家主席が同国を初めて公式訪問した。先立つ4月には、大臣級の徐紹史国土資源部長がグリーンランドまで出向いて行ってもいる。
著者:谷口智彦(慶應義塾大学大学院SDM研究科特別招聘教授)
WEDGE - 11月21日(水)15時27分)

掲載の時はアイスランドが舞台だったが、状況は大差ない。