巨人の綻び

トヨタなぜHV戦略にこだわるのか EVと距離を置く理由とは?
トヨタ自動車が平成27年末までに新型ハイブリッド車(HV)21車種を発売する。HV重視の戦略を鮮明にしたわけだが、一方で電気自動車(EV)は年内に発売するものの、当初計画は大幅にトーンダウン。なぜ、トヨタはEVに及び腰なのか。EVが普及すれば、取引先約2万6千社から成る巨大な“トヨタピラミッド”に亀裂が生じるとの危機感が見え隠れする。
エコカーの“本命”といえば?」 こう問われると、「電気自動車(EV)」と答える人は多いはずだ。ガソリンではなく、電気で走るクルマ。これは1908年に米フォード・モーターがガソリン車の量産モデルを開発して以来、自動車業界の新たな1ページの始まりであり、すでに三菱自動車日産自動車がEVを発売している。マーケティング会社の富士経済(東京都)によると、日本のEV販売台数は2025年に100万台超、30年には191万台と200万台に迫ると予測されている。
ただ、不思議なことに今年1〜6月の世界販売台数では2年ぶりに頂点に返り咲いたトヨタは、EVに対してやや距離を置く。トヨタ関係者は「HVもEVも燃料電池車(FCV)も全方位にやっています」と説明するが、HV、プラグインハイブリッド車(PHV)に比べ、EVの事業化に対するスピードは決して早いとはいえない。9月24日の環境対応車戦略発表会で、今年12月に小型車「iQ」をベースとしたEV「eQ」(国内販売価格は360万円)を発売すると発表。しかし、グローバルの販売台数はわずか100台と少ない。
2年前に計画を公表した際には数千台の販売を見込んでいたが、「EVはまだまだ難しい」(内山田竹志副会長)。HVについては平成27年末までに新モデル14車種を含め21車種を投入するだけに、「EVに対するトヨタのスタンスを如実に物語っている」と業界関係者は話す。トヨタは、平成9年に世界で初めてHVの量産車を開発し、初代プリウスを世に送り出した。以来、HVによってエコカー市場を牽引(けんいん)し、今年のHV世界販売台数見通しは初めて100万台に達するなど、約15年かけて事業の柱に育て上げた。
長年積み上げてきた歴史もあり、HVへのこだわりは並大抵ではないが、実はそれだけではない。前出の関係者は「EVが主流になれば、自動車メーカーの存在基盤すら揺らぐ恐れもある」という。約3万点の部品で構成され、複雑な構造のガソリンエンジン車に対し、EVは電池とモーターという2つの部品がクルマの性能を決定付ける。「EVは電池とモーターがあれば動く。安全性は大前提だが、部品点数も少なく、異業種も参入しやすい」とある大学教授は解説する。
トヨタには、一次サプライヤーと呼ばれる主要な部品供給先400社をはじめ二次、三次サプライヤーなど計2万6千社前後の取引先が存在する。ガソリンエンジン車を構成する部品点数の多さと、内燃機関の複雑さによって「この巨大なピラミッド構造が成り立っている」と前出の大学教授は明かす。言い換えれば、部品点数が少なく、「プラモデルのように比較的容易に組み立てられる」(関係者)EVが普及すれば、トヨタピラミッドに亀裂が入る恐れもあるというわけだ。
しかも、EVの心臓部である電池は自動車メーカーではなく、パナソニックなど電機各社が技術を保有しているケースが多い。これはピラミッドが崩れるだけでなく、状況次第では将来的に自動車開発の主導権を電機メーカーに握られてしまう可能性があることを意味している。これに対し、HVは「エンジン」と「モーター」という2つの動力源を搭載しているため、エコカーでありながら“ブラックボックス”の内燃機関が存在。つまり、構造はきわめて複雑で、「トヨタピラミッドをこれまで通り維持することができる」(関係者)。 
実際、トヨタはHVの新モデルを大量投入するだけでなく、米フォード・モーター、独BMWとHV技術で協業関係を構築。HVをエコカーデファクトスタンダード(事実上の業界標準)とするための動きを活発化させている。トヨタを頂点とするピラミッド構造こそグループの強さの源泉。それだけにEV技術は保有しつつも、当面はHV一本やりのエコカー戦略が続くはずだ。
産経新聞 - 9月29日(土)20時38分)

作っていないわけじゃない。
しかし、世界で一番最初にデジタルカメラの技術を開発しながら、フィルムに固執したため破滅に追い込まれたイーストマン・コダックの前例を忘れてはいまいか。