博打

リクルート、社員も驚くまさかの上場 国内市場の頭打ちに危機感
情報・人材事業大手リクルートが株式上場の準備に入った。その一環で、ガバナンス(経営統治)を強化しようと10月1日付で組織を再編、持ち株会社リクルートホールディングス」を設立する。不動産子会社の未公開株を政官界の有力者に譲渡していた「リクルート事件」を起こした同社にとって、上場は長年の懸案でもあった。国内市場の成長鈍化という危機感が背中を押し、経営陣は一気にハードルを乗り越えることを決断した。
「まさか、うちの会社が上場するとは…」。社員の多くがそう驚くように、上場方針は、6月の株主総会で峰岸真澄社長が唐突に表明した。非上場のリクルートの総会は外部に公開されることはないが、情報は瞬く間に伝わり、話題となった。リクルートの上場方針が注目されるのは、昭和63年のリクルート事件があるからだ。昭和35年に江副浩正氏が「大学新聞広告社」として創業したリクルート。情報サービスと広告営業で急成長したが、グループのリクルートコスモスの未公開株譲渡が政官界を揺るがす一大スキャンダルに発展した。
リクルート事件後、バブル崩壊も重なり、業績は悪化。不動産などへの投資が単体の負債として約1兆4千億円にも積み上がり、平成4年には大手スーパー、ダイエーの傘下入りを余儀なくされたこともあった。江副氏は現在、公益財団法人の代表理事を務めている。産経新聞の取材に「リクルート株の大半はダイエーに譲渡し、いまは若干を所有しているだけ。これまで経営陣に助言や進言をしたこともない。後輩たちがよく頑張って、上場を目指すところまでこぎつけてくれたことをうれしく思う」とのコメントを書面で寄せた。
どん底を経験したリクルートだが、その後は結婚情報誌「ゼクシィ」や転職情報サイト「リクナビ」など、サービスを多様化しながら成長。負債をほぼ完済した19年には、人材派遣大手スタッフサービスを1700億円で買収するまでに業績は回復した。24年3月期の連結売上高は前期比7・2%増の8066億円、営業利益は27・1%増の1150億円。25年3月期は4期ぶりの連結売上高1兆円超えを狙う。25年3月期の業績を踏まえ、来夏以降の東証1部上場を目指すようだ。
カブドットコム証券の山田勉マーケットアナリストは「日本航空のような従来型産業とは違う“大型ルーキー”」と期待する。知名度抜群で、投資家の関心も高いだけに「時価総額は1兆円規模になる」とみる。上場の最大の狙いは、峰岸社長が「上場企業という信頼性と透明性を持って世界で勝負したい」と述べるように、海外事業の拡大にある。
リクルートは創業以来、就職、結婚、住宅と「人生のピーク期」をターゲットとした情報サービスを提供、紙媒体を中心に成長してきた。だが、スタッフサービスは買収後、リーマン・ショックと景気低迷の影響で大規模なリストラを余儀なくされた。人口減少時代を迎え、リクルートには「国内市場はいずれ頭打ちになる」との危機感がある。一方、最近は人材マッチングなど、リクルートに似たサービスを安い値段で提供するネットベンチャーが相次いで登場し、脅威となりつつある。
その点、海外には国内で培ったサービスを提供できる余地がある。売上高に占める海外比率を、24年3月期の約4%から5〜6年後には50%に拡大する目標を掲げており、昨年は北米で人材派遣事業の大型買収も実現した。さらに上場によって、調達した資金をM&A(企業の合併・買収)に振り向ければ、海外事業の強化が果たせる。
ただ、社内には「リクルートに海外マネジメントのノウハウはない」と指摘する向きもある。実際、「ゼクシィ」は16年に上海、19年に北京と中国に進出したが、今後は地元IT企業と設立した合弁会社に事業を移管し、リクルートは実際の運営から手を引く方向だ。インターネットが普及している中国での雑誌展開はうまくいかなかったためだとされる。
一方、現在はネットベンチャーを経営する元社員は「IT分野の投資が今後を左右する。海外企業の買収に失敗すればリクルート自身が買収される可能性もあり、狙っている企業は少なくない」と指摘する。さらなる成長を目指し、上場を決断したリクルート。だが、上場は自らが買収の対象となるリスクを背負う。食うか食われるか。リクルートの上場は、厳しい競争への船出でもある。
産経新聞 - 9月30日(日)9時5分)

いろんな理屈はつけても、ものすごい賭けですね。
これ。