カイゼンは通じない

トヨタの回復は本物か?――首位奪還でも募る不安
トヨタ自動車の業績が急回復している。今年4−6月期の業績は最終損益が2903億円と東日本大震災に直撃された昨年同期の250倍に急回復した。販売台数では今年上半期(1−6月期)に前年同期比33.7%増の497万台(グループのダイハツ工業日野自動車を含む)に急伸し、米ゼネラル・モーターズGM)の467万台、独フォルクスワーゲンVW)の445万台に大きな差をつけ、首位を奪還した。通年では976万台と過去最高を目指している。ただ、好調の背景には大震災の反動需要増、リーマンショックで落ち込んだ米国需要の復調という外部環境の追い風がある。トヨタが今後も世界トップの自動車メーカーの座にとどまれるのかは即断できない。むしろ足下には大きな不安もある。
まず、確認すべきはトヨタが2011年に世界トップの座から滑り落ちた理由だ。はっきりしているのは東日本大震災の影響による部品の供給途絶によって生産が停滞し、「売りたくても売る車がなかった」(トヨタ関係者)ことだ。さらに昨年秋にはタイの大洪水があり、バンコク近郊のピックアップトラックや小型車を中心とする生産拠点の稼働率が低下、インドネシア、フィリピンなど周辺の東南アジア諸国向けの部品供給の一部も滞ったため、生産がダウンした。トヨタだけでなく、日本メーカー全体が天災に直撃され、販売台数を落とした。だが、そうした要因に目を奪われると、トヨタが直面するグローバルメーカーとしての不安を見落とすことになる。
■中国で勝てないトヨタ
昨年、販売数で世界首位に返り咲いたGMと2位のVWとの比較がトヨタの問題点を浮き彫りにするだろう。両社とトヨタの大きな違いは中国など新興国市場での販売力だ。世界最大の自動車市場である中国で昨年、GMは254万台、VWは225万台を販売した。これに対し、トヨタの販売実績は88万台と両社の3分の1の規模にすぎない。トヨタは中国市場での出遅れが指摘された1990年代末以降、中国への取り組みに力を入れてきた。
中国の自動車3強の一角、第一汽車との合弁を強化し、天津、長春吉林省)を乗用車の一大生産拠点としたほか、成都四川省)で小型バスの「コースター」など商用車の生産も着実に伸ばした。さらに広州汽車との合弁で、広州(広東省)にも「カムリ」などセダンの工場を展開、中国全土を広く押さえる体制を構築した。手薄だった上海周辺の華東地区でも江蘇省に新車開発センターやテストコースを設け、中国向けの独自商品の開発にも力を入れている。
だが、GMVWとの差は縮まる様子がない。80年代にトヨタは中国政府からの熱心な進出要請を断り、代わってVW上海汽車との合弁で進出。それ以降、中国政府とトヨタの関係はぎくしゃくし、トヨタに逆風が吹いていたのは事実だが、すでに過去の話。今は、中国政府はトヨタからハイブリッド車などの最新技術を取り込みたいために、トヨタ優遇の姿勢だ。にもかかわらず市場ではトヨタの不人気が続いている。トヨタ新興国市場で売れる車を開発できておらず、マーケティングもうまく行っているとはいえない。
トヨタと日産の違い
トヨタの12年3月期の地域別販売台数は日本が207万台と全体の28%、北米が187万台で25%。端的に言えば、日本と米国で過半の売り上げをあげている。一方、日本を除くアジアはトヨタの牙城にみえて実は133万台しか販売できておらず、全体の18%どまりだ。中南米、ロシア、アフリカなどその他地域も128万台と17%。トヨタは成長するアジアや中南米の新興経済圏の獲得がうまく行っているとは言いがたい。GMが中国一国だけで世界販売の28.1%、VWも27.6%をあげ、新興国を成長の原動力にしているのとは対照的だ。
トヨタ自身も新興国市場に向け、様々な戦略を打ち出している。1500ccクラスの小型車「エティオス」を開発、2010年末からインド市場にまず投入、その後、南アフリカ共和国でも発売し、今年9月にはブラジルでも販売を開始する。その他、合計で8車種もの新興国向けの車を2015年までに投入し、新興国市場を攻略する戦略を打ち出す。ただ、エティオスのインドでの販売価格が100万円前後であるように、「100万円以下の車はやらない」(布野幸利副社長)と価格帯を高く設定している。トヨタブランドで攻める以上、機能、品質を落として、価格を下げる戦略はとらない考えだ。
これと対照的なのは、12年3月期で営業利益、最終利益でトヨタを抜いてトップに立った日産自動車だ。日産は新興国市場向けの戦略車の基本価格を50万円に置き、日産ブランドではなく、新興国向けの独自ブランド、「ダットサン」で攻略する。ダットサンは当面、インド、インドネシア、ロシアの3カ国向けで始め、新興国全体にひろげる。日産がトヨタの半値近い水準で攻めるのは、ルノーグループのルーマニアのメーカー、ダチアが開発し、東欧、アフリカ、中東市場などで大ヒットした「ロガン」の経験があるからだ。ロガンの価格はまだユーロ高だった2004年の発売時点で60−70万円、今なら50万円を切る値段だ。
■「アッパーミドル層向け」の危うさ
トヨタの狙う100万円超は新興国では中流層でも上の層、アッパーミドルだが、日産は「中流中流」までを狙いに定めている、とみることができる。問題は新興国のアッパーミドル層がどこまで膨張するかだ。中国市場ではアッパーミドルの急増が自動車販売を押し上げたが、この2年ほどをみれば売れ筋は1300cc以下の小型低価格車になった。150万−250万円といったランクの乗用車を購入できる層は中国といっても限定的で、しかも今後、さらに拡大するかは疑問だ。中国の自動車市場の拡大が止まり、2年連続で1800万台にとどまり、今年も1−6月ではわずか2.9%しか伸びていないことがアッパーミドル層向けの自動車販売の危うさを示している。
トヨタなど多くの日本メーカーは、新興国の「中流中流」が短時間で所得水準を高め、アッパーミドル層に加わるとみているが、アジアの新興国の大半は産業の高度化を進められず、労働集約型産業以外での競争には耐えられないのが実情だ。そこに売るとすれば、低価格は重要なキーワードになる。トヨタにはその視点が欠けているようにみえる。
日本や北米でトヨタの販売を支える「プリウス」などハイブリッド車が価格が高すぎて、新興国では見向きもされないのは、そうした事情をよく示している。新興国では、燃費より車体価格なのだ。
新興国市場の細かなニーズに対応できるか
もうひとつ重要なのは、新興国のユーザーニーズの把握だ。VWの中国合弁である上海大衆(VW)汽車は、80年代半ばの生産開始以来、ながらくVWの商品をそのまま中国市場で生産、販売していたが、2000年以降は中国市場向けにアレンジした独自開発車の投入を始めた。特に07年以降は中国市場向けの車を年3−5車種というペースで投入、販売好調の最大の要因となっている。新興国では内装や外観、機能で各国市場の細かなニーズに対応しなければ成功できない。買う側にとって自動車は住宅に次ぐ大型の商品であるからだ。
トヨタが世界トップの自動車メーカーに復帰するには新興国市場でやはりナンバー1になる必要がある。そのためには、新興国市場向け低価格車の専用ブランドをつくり、その本社機能を新興国に移すべきだろう。日産はプレミアムカーブランドの「インフィニティ」の本社を香港に移転、日本の発想から離脱することでグローバル戦略のレベルアップを図っている。トヨタが「トヨタトヨタ」という守旧的路線をとる限り、首位奪還は三日天下に終わりかねないだろう。
フォーサイト - 8月27日(月)12時27分)

だって、トヨタの車はツマランし・・・。