ユナイテッドの本気度

コラム:マンチェスターに新時代は訪れるのか
3カ月前、あり得ないほどに劇的な形でマンチェスター・シティがタイトルを獲得した直後には、これで時代が変わったと声高に叫ぶことが圧倒的なトレンドとなった。だがその後、少し状況が落ち着いた頃に聞こえてきた冷静な声は、2つのことを我々に思い出させてくれた。エディン・ゼコセルヒオ・アグエロアディショナルタイムの2得点によって優勝をさらわれたとはいえ、ユナイテッドはわずかに得失点差でシティに劣ったに過ぎないこと。そして、ユナイテッドはまだ若い発展途上のチームであり、フィル・ジョーンズダビド・デ・ヘアなどの若い選手たちがこの経験を糧にさらに成長するに違いないということだ。だがやはり、(シティのオーナーの)シェイク・マンスールがまた1億ポンドかそのあたりの大金を投じ、マンチェスター市内の力関係をそれ以上に青い側へと移動させることも予想された。
だが現実には、それは起こらなかった。少なくとも、現時点では起こってはいない。先週ようやくジャック・ロドウェルを獲得したシティだが、それがこの夏の最初の補強だった。そのロドウェルも移籍が濃厚なナイジェル・デ・ヨングの穴を埋めるための補強に過ぎないだろう。ロベルト・マンチーニ監督とブライアン・マーウッドSD(スポーツディレクター)の関係はどこかよそよそしく、シティとしては不思議なほどに出費に慎重な姿勢を保ち続けてきた夏だった。新たなスター選手を獲得するために、エマヌエル・アデバヨールロケ・サンタクルスを売却する期限は刻々と迫りつつある。このままであれば、昨シーズンとほぼ変わり映えのしないシティは、「2年目のジンクス」的な問題に直面することになりそうだ。「優勝未経験」の鎖から解き放たれたことで、シティはより抜け目のない、成熟した戦いぶりを見せてくれるのだろうか? あるいは、新たな巨大勢力として追われる立場になったことが彼らを苦しめるのだろうか?
ロビン・ファン・ペルシの移籍にまつわる一連の騒動を通して、シティは真の名門クラブとしての名声を得るのはそう簡単ではないとあらためて痛感させられたことだろう。すでにアーセナルからシティへ移籍したスター選手たちに続いて、ファン・ペルシの移籍先もシティになることが濃厚だと見られていたが、実際にはそうはならなかった。昨季のプレミアリーグ得点王は、アブダビの資金による「プロジェクト」よりも、ユナイテッドの選手として得られるステータスと名誉の方がはるかに魅力的だと迷わず判断した。
サー・アレックス・ファーガソンにとっても、ファン・ペルシを獲得できるチャンスがあれば迷う必要はなかった。彼を加えてさらに強力になった攻撃陣を、ファーガソンは1999年のチームにも匹敵すると誇った。だがやはり、この補強は様々な点で驚きでもあった。ガナーズとの契約が残り1年となっていた29歳の選手に支払った金額は、明らかにユナイテッドらしからぬ方針転換だった。うんざりするような借金まみれのグレイザー政権下で、ユナイテッドはより質素な姿勢を旨としてきた。一方で、(元アーセナルの)ボブ・ウィルソンとガナーズのサポーターは、公の場でアーセナルの野心のなさを批判したファン・ペルシに対し「怒りに近い」感情を抱いている。今回の移籍市場でアーセン・ヴェンゲルルーカス・ポドルスキオリヴィエ・ジルーサンティ・カソルラを獲得する積極補強を行ったが、その状況の中で発せられた批判だった。
とはいえ、ファン・ペルシはもうずっと以前からこの夏を視野に入れていた。多額の給与を得るためにも、プロとして望み通りの成功に向けた道のりを進むためにも、この時がラストチャンスだと気が付いていた。セスク・ファブレガスサミル・ナスリの退団に彼が強く落胆したことはよく知られており、オールド・トラフォードでの「あの」8−2の敗戦の絶望感もそれに輪をかけた。リーグ戦で30ゴールを記録し、最終的にアーセナルを3位にまで引き上げても、わずかな慰めにしかならなかった。全てのファンが忠誠心の欠如を嘆こうとも、彼との別れは避けようのないことであり、同時にそれはアーセナルにとって良いビジネスでもあった。この取引によってよりリスクを負うことになるのはユナイテッドの方だが、再びマンチェスター勢に支配されることになりそうな今季のプレミアリーグにおいて、ファーガソンのチームが得失点差で栄冠を勝ち取ることにでもなれば価値ある取引だったということになるだろう。


文/ベン・メイブリー(Ben Mabley)
英・オックスフォード卒、大阪在住の翻訳者・ライター。『The Blizzard』などサッカー関係のメディアに携わる。ツイッターアカウントは@BenMabley
(Goal.com - 8月20日(月)14時45分)

同じ市内のクラブに持ってかれたことはよほど屈辱と映っているはず。
今度のシーズンは、持っていきそうな気配。