こんなのはじめて

アンフェアなCL決勝。 地の利を得たバイエルンは5回目の優勝を飾れるか?
まずはバイエルン・ミュンヘンがここまでたどり着いたことを称えたうえで、言っておかなければならないことがある。それは、今年のUEFAチャンピオンズリーグ(以下CL)決勝がCL史上最もアンフェアなファイナルだということだ。
というのも、中立地での一発勝負で行なわれるはずのCL決勝が、今年はバイエルンのホームで行なわれるからである。対戦相手のチェルシーにとってみれば、これほど不公平な話はない。
とはいえ、そこには何らの作為もない。
毎年、決勝の開催地は事前に(たいていは数年前に)決められている。つまりは、過去の試合においても「CL史上最もアンフェアなファイナル」になる可能性はあったわけだが、当該クラブが決勝に進むことができなかった、というだけのことだ。
決勝の開催地をホームとするクラブが決勝に進出したのは、92年にCLが創設されてからは初めてのこと。前身のチャンピオンズカップ時代にさかのぼっても、過去に3度しか例がなく、実に28年ぶりの快挙なのである。
ホームでCL決勝を戦うという稀な栄誉を授かったバイエルンの選手たちは、当然、優勝へ並々ならぬ意欲を見せる。なかでも右SBのラームは、その思いが強い。約170cmと小柄なキャプテンは、試合前日の記者会見でこう語っている。
「(地元で行なわれる)決勝に進出することは夢だったが、こうして僕らはここにいる。まだ難しい仕事が残っているが、CL決勝でホームスタジアムのピッチに立てるというのは、すばらしいことだ」
ミュンヘンで生まれ育った28歳のラームは、11歳でバイエルンの育成組織に入り、長くバイエルンで選手生活を送ってきた、文字通りの生え抜き。そんなラームにとって、この一戦が特別でないはずがない。
「ここは間違いなく僕のホーム。周りを見ると、みんなが(決勝進出を)喜んでくれている。いい予感がするよ」
恐らく、「いい予感」はすべてのバイエルン・サポーターにとって共通のものだろう。今季のCLにおいて、バイエルンはホームで7戦全勝。ただの一度も、負けはおろか、引き分けすらないのだ。
また、ホームアドバンテージは単純な数字だけの話ではない。
CL決勝の場合、試合前日に出場2クラブがスタジアムで公式練習を行なうのが通例だが、バイエルンはいつも通り、クラブの練習場で粛々と前日練習を行なった。
大一番を前にしても、こうしていつもと変わらぬ環境で汗を流すことができるメリットは大きい。練習場には多くのサポーターが詰めかけ、グラウンド脇の小高い丘の上から、発煙筒までたいて、試合並みの大声援を送っていたが、選手たちは至って落ち着いた様子を見せていた。
加えて、ラームは「2年前の経験が大きい」とも話す。
バイエルンは一昨年、9年ぶりにCLで決勝進出。だが、インテルに敗れ、惜しくも優勝を逃している。ラームは当時を「すべてが初めての経験だった」と振り返り、こう続ける。
「今の僕らは、より多くの経験を積んでいる」
バイエルンは、直近の公式戦であるドイツカップ決勝でドルトムントに2−5と敗戦。ブンデスリーガでも同じくドルトムントの後塵を拝して、2位に終わっている。普通であれば、いい流れでCL決勝を迎えているとは言い難い状況だ。
ラームにしても慎重な姿勢は崩さず、「ホームで戦えることは、わずかなアドバンテージにすぎない。(力は拮抗していて)小さなことで勝敗が決するだろう」と話す。
それでも、バイエルンの優位は動かしようがない。地の利がいかに大きいかは、サッカーの世界ではなかば常識だからだ。
だからこそ、負けられない、いや、負けるはずがないと、バイエルン・サポーターは信じている。まだ試合前夜にもかかわらず、ミュンヘン市内中心部のマリエン広場には早くも多くのサポーターが集まり、大量のビールを胃袋に収め、気勢をあげていた。
試合会場はもちろんのこと、市内で行なわれる2カ所のパブリックビューイングでも、合わせて95,000席のチケットがすでに完売。歴史的な一戦を前にミュンヘンは今、異常な盛り上がりを見せている。
バイエルンが通算5度目の優勝を成し遂げたとき、ミュンヘンの街はどんなことになるのだろうか。それを想像すると、楽しみでもあり、恐ろしくもある。
浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki
(webスポルティーバ - 5月19日(土)18時20分)

それでもわからないのがフットボールの世界。