長い

東京メトロ銀座線の魅力アップ! 4月に28年ぶり新型車登場
東京メトロ銀座線(渋谷−浅草)が持つ独特な趣はファンの心をつかんで離さない。
狭いホームの端に立つと、トンネルの闇の奥からどこか懐かしく甘い“鉄の香り”をはらんだ風が吹いてくる。やがて「ゴー」という音とともに、黄色いヘッドライトの光が見え、トンネルの大きさいっぱいの電車が滑り込んでくる…昔から変わらないイメージだ。
だが、時代とともに車両も駅も明るく、広くなり、利便性と安全性がアップする一方で、こうした「良き銀座線」の特徴は薄れてきたようだ。
そうした中、ファンにとってうれしい知らせがあったのは昨年2月のこと。東京メトロが28年ぶりの新型車両「1000系」を導入するというものだった。この名を聞いて、胸の高鳴りを覚えたファンも多いはずだ。
前置きが長くなったが、その1000系電車1編成(6両)が完成し、いま本格的な試運転が繰り返されている。いよいよ4月中旬にデビューする。
東京メトロによると、1000系は昭和2(1927)年の開業時から約40年間活躍した旧「1000形」電車のイメージを取り入れ、中身は最新技術を駆使した高性能電車だ。当初は1編成のみの運行となるが、同社は「東京メトロの顔」と位置付け、平成25年度から現用の「01系」電車を順次置き換え、27年度には全38編成を1000系で統一するとしている。
同社の広報担当者は新型車両について「銀座線は東洋で初めての地下鉄道。導入に当たり、由緒ある路線の特色をどう生かすかをさまざまに議論して出した答え」と説明する。銀座線は、レールの幅(軌間)や集電方式の違いもあり、他社線との相互乗り入れをしていない「純粋な路線」だ。車両の大きさも開業時とそう変わらない。そして、浅草、上野、銀座、新橋、表参道、渋谷といった都内の主要な街を貫く路線でもある。「この条件だからこそ、思い切ったデザインができた」(広報課)という。
旧1000形は当時、安全面を中心に新機軸を積極的に取り入れた最先端の電車だった。地下を走る特殊性から木造車全盛の時代に燃えにくい鋼鉄製の車体とし、日本で初めて自動列車停止装置(ATS)を導入したばかりか、間接照明やはね上げ式のつり革など、機能やデザイン性にもすぐれていた。
「もちろん、新型車は単にレトロな電車ではありません。先人たちが培ってきた安全、安心、新しい技術という思想を継承した上で、外観は当時のイメージに近づけました」(同)。
新1000系の開発に当たり、同社が追求したのは乗り心地と省エネだという。銀座線は、トンネルが低くカーブも多い。走る電車は数ある路線でも最小サイズだ。
まず考えたのは、カーブの多い線路で発生する車輪とレールがこすれる不快な音と振動。これを最小限に抑えるための「操舵台車」の採用だった。電車がカーブに差しかかると、車軸がレールに沿って自動的に舵を切る仕組みだ。これは、東京メトロとして初めて導入したものだという。
同社設計課の川島英治さんは「スムーズに曲線を通過できるため、これまでの台車と比べて安全性も一層高くなった」と自信を見せる。また、駆動系の心臓部は「永久磁石同期モーター」と最新式の制御装置の組み合わせを採用し、01系電車との比較で約2割の節電を実現している。
車内を見ると、1000系は連結面の貫通ドアや座席横の仕切り、荷棚などに強化ガラスが多く使っている。「少しでも広く、明るく感じてもらうための工夫」(川島さん)だとか。
座席も1人当たりの幅が46センチと、01系より2センチ広くなった。「座席幅の違いはわずかだが、クッション性のよい素材を使ったので乗り心地では大きな違いを感じてもらえる」(同)という。ほかにも、小型で効率がいい冷房装置やLED照明の車内灯、各ドア上に液晶画面の表示器(17インチ)、弓型の手すりが設置された。
外観の特徴は何と言っても色だろう。旧1000形の車体は、駅やトンネル内でも目立つように明るいレモンイエローで塗られ、屋根はその頃の電車特有のベンガラ色(赤茶色)だった。当然、新型1000系にも同じレモンイエローとベンガラ色が採用された。「初代の塗色を忠実に再現しようと検討を繰り返して決めた」(広報課)という、こだわりの色だ。
ただ、塗装ではなく、環境面を考慮して色の付いた樹脂シートをアルミ合金製の車体全面に貼る「フルラッピング」となっている。現在、01系電車や路線案内表示に使われている銀座線カラーのオレンジ色より明るく、ぐっと鮮やかな色調になったのはとてもいい。ちなみにオレンジ色は、何と戦後の混乱期にはっきりとした基準もないまま車体に塗られた色だったらしいのだ。
ヘッドライトの位置は1000形と同じ「オデコ」に戻した。見た目を似せるため、出っ張ったようにしたのも好ましい。そして、このヘッドライトも国内の鉄道車両としては初のLED照明なのだとか。
同社では、乗客の転落事故を防ぐホームドアの設置を各駅で進めており、銀座線でも28年ごろからの設置を予定しているという。「オデコ」のライトはホームドアが設置された際、デザイン面でレトロ感を出しただけでなく、駅に進入する電車を利用者が確認しやすいという利点もあるのではないか。
残念なのは、正面の貫通ドアの位置が伝統的な真ん中ではないことだ。運転室内の機器をうまく収めるためだそうだが、1000形や歴代の銀座線車両のイメージを大きく変えている。窓周りの「黒マスク」と合わせた印象が現代的になったと言われれば、そうなのだが。
いちばんの隠し球は、わざわざ1000形と同じ構造で作ったという警笛(ホーン)だろう。開業時の電車と同じ音を出すという楽しみな装備品だ。通常タイプの警笛と一緒に設置してあるが、こんな楽しい「仕掛け」を積極的にPRしていないところが面白い。果たしてこれから量産される1000系の全てに付けられるのだろうか。
銀座線といえば、ホームに電車が進入する際、室内灯が一瞬消えてドア近くにある補助灯がぱっとついたことを思い出す。1000系の開発では、そんなことも「再現しようか」と議論したとか。開発した人たちの間には、それほどの思い入れがあったのだ。
銀座の街を歩く「モボ、モガ(モダンボーイ、モダンガール)」が話題となった時代、地下鉄を颯爽と走る1000形電車は乗客らに新しく、スマートな印象を与えたに違いない。そして、この1000系電車もそうなるだろうと予感させる。
同社は「銀座線は通勤、通学以外に、買い物や観光の足としても多くの方に利用していただいてきた。1000系は東京を代表する路線の一つを走る、世界にもアピールできる最先端の車両」と胸を張る。
単なる“復刻版”ではなく、古き良きもの中に「最新」を詰め込んだ電車。デビューが待ち遠しい。
産経新聞 - 3月18日(日)12時22分)

この文章、長すぎ・・・