ただのロゴ変更じゃないのか?

店名も商品名も消えた――スターバックスがロゴを変える意図
スターバックスがロゴを変える。新年早々、1月5日付のニュース。無線LANが使えるスタバでニュースを読んだ人もいるだろうか。ロゴはどう変わるのか? ひと言でいえば「スタバが消え、コーヒーも消える」。真ん中の“サイレン(セイレーン)”と呼ばれる人魚だけになり、それもでっかくなる。
1971年にシアトルでコーヒー豆を売り出したころの最初のロゴは、コーヒーと版画をイメージしたブラウンがベース。1987年にエスプレッソをメニューに加えた時のロゴは、今に通じるグリーンと黒が基調であり、1992年に上場した時にそれを修正したロゴはバランスが絶妙である。そして2011年、「生まれ変わろう」とハワード・シュルツCEOが宣言して発表したロゴからは大胆にも「店舗名(スタバ)」も「商品(コーヒー)」も消えた。
予想通り賛否両論、いや否定コメントがあふれた。米国本社Webサイトには、原稿を書いている1月23日現在で854ものコメントが寄せられている。ほぼ炎上である。「デザインが悪い」「好きじゃない」「クレイジーだ」といった否定意見ばかり。まあそれも分かる。スタバファンとしてラブしてきた「第三の場所(家と仕事場の間の場)」の看板も飲料カップロゴも、あっさり変えるのだから。それだけ街角に根付き、文化として愛されてきた証拠なのだろう。
スタバ40年目のロゴ変更、そのウラにどんな狙いがあるのだろうか? 経営環境とエモーショナルな側面、そしてスターバックス体験から掘り下げてみた。
●シュルツ氏のコメントにすべてがある
変更を発表したハワード・シュルツ氏のエントリ「Looking Forward to Starbucks Next Chapter(スターバックスの次章に期待を寄せて)」にはこうある。
「シアトルのPike Place店(第1号店)では受け継いできたものに耳を傾け、秋に同じシアトルにオープンした最新のOlive Way店では、スターバックスの未来を感じました」
Pike Place店でコーヒー豆を売る店としてスタートし、40年後のOlive Way店では実験店舗として古材を使い、アーティストの生演奏を入れ、ワインやビールもあるスタバになった。恐らく「LEED」と同社が名付ける新しい店舗フォーマット構想に沿っているのだと思う(LEEDは建物やサービス、商品をすべて環境にやさしいものにするコンセプト店舗。シアトル、ロンドン、ニューヨーク、パリ、マドリード、福岡などにある)。さらにシュルツ氏はこう言う。
「世界50カ国以上で、店舗で、スーパーの店頭で、自宅や会社で、お客さまとつながりがあります。コーヒーだけでなくほかの製品も提供しています」
ポイントは「スーパー」「ほかの製品」というところだ。店舗と製品の変更点を図で整理しよう。タテ軸は「店舗内でコーヒー」か「店舗の外でコーヒーと非コーヒー」、ヨコ軸は「スタバ」か「非スタバ」か。
2010年に発売したインスタントコーヒー「VIA」はヒット。さらに飲料メーカーと提携して、スーパーなどでの小売製品を増やしてきた。それが「店舗から飛び出す」スタバ戦略その1。さらにLEEDやほかの新店舗フォーマットへの移行は、非コーヒーへの拡張であり、「店舗を変える」スタバ戦略その2である。同社の売上高データからその必然性が見えてくる。
売上高構成比推移では、2つの点が顕著。まず店舗や製品のライセンス売上(海外FC収入)が、2005年の6%から2009年には8%へと伸びている。中でもブランド製品売上(小売り商品やVIA)の比率が2005年の2%から2009年には14%へと相当伸びた。
そして売上高は成長が止まった。2008年までの成長後、2009年にマイナス。さらに既存店売上高は対前年比マイナス6%もの減退。常に成長し続ける上場企業の責務が果たせていない。
つまり、新店舗の展開と非コーヒー製品の拡張のため「ロゴ変更が必要」なのだ。
●サイレンの物語
ロゴ変更のウラには経営上のロジカルな選択があった。それはスタバという文化を考えるとちょっと残念。いや待て。実はエモーショナルな面もある。そもそもロゴの人魚、サイレンはどういう意味を持っているのだろうか?
40年前、スタバの創業者は創業するコーヒー店にどんなロゴがいいか、シアトル港のルーツとコーヒーに関する海運書を読みあさった。その中にあった16世紀のノルウェー木版画に、2本の尾を持つ人魚、サイレンが描かれていた。サイレンは創業者を海という市場に引きずり込んだ。
経営体が変わり海外へ展開しても、サイレンは生き残り、その示す行方に向かってスターバックスは船(経営)をこぐ。ロゴをサイレンだけにしたのは「原点の原点に立ち返る」いう意味なのだ。
スターバックス体験
店舗ビジネスとは行動様式の販売である。消費者に行動様式を刷り込んだ者が勝つ。
日本では銀座の角の立ち食いで始まったマクドナルド。ファスト(早く手軽)に食べる文化を根付かせた。セブン-イレブンは便利な品揃えで、朝から夜までの多様なライフスタイルを支えた。スターバックスは第三の場所として、くつろぎや気分転換、集中思考の場を提供してきた。
だから私はワインやビールを出すスタバは感心しないし、ティーラテさえ「まったりしたくないんだよ」と思う。苦いコーヒーのスタバが落ち着く。ロゴを変えても飲料を増やしても、そこは変えないでほしい。
製品を増やすのは簡単だが、行動様式を増やすのは至難のわざである。薄めたり、牛乳を混ぜるのとは違う。簡単にするべきでないと思う。
カフェチェーンにとって拡張路線は唯一の解ではない。サイレンの国ノルウェーは、ヴァイキングで欧州を席巻した後、黒死病で亡びた。そんな歴史を繰り返さないことを祈りたい。【郷好文,Business Media 誠】
(Business Media 誠 - 01月27日11:33)

別にスタバが、10年後今のGoogleみたいな企業になっていたとしても、何も驚きはないけどね。
企業である限りは。