イワシが危険

カタクチイワシの約8割から検出、懸念されるマイクロプラスチックとは
(THE PAGE 6月13日(月)11時34分)


海の中を漂う大きさ5mm以下の微細プラスチックを「マイクロプラスチック」と言う。有害物質を含む可能性があり、生物への影響が懸念されている。昨年、東京農工大学農学部環境資源科学科の高田秀重教授の研究グループが、東京湾で捕獲したカタクチイワシ64匹中、約77%にあたる49匹の消化管からマイクロプラスチックを検出したと発表。高田教授は、「この問題は、個々が被害を被る側であり、かつ加害者になりうる。1人ひとりが意識を変えなければ」と訴える。
◆海岸の漂着プラが劣化して、マイクロプラスチックに
青く美しい、日本の海。だが、環境省の調査によると、日本周辺の海域におけるマイクロプラスチックの濃度は世界平均の27倍だったという。
レジ袋などの材料となる「ポリエチレン」、ペットボトルの元となる「ポリエチレンテレフタレート」など、わたしたちは数々のプラスチックを使用している。これらのプラスチックがごみとして海に流出し、劣化して小さくなると、マイクロプラスチックとなる。日本国内からの発生のほか、他国から海流によって運ばれてくる可能性も考えられている。
高田教授によると、プラスチックが劣化する場となっているのはおもに海岸の浜辺だという。ポリエチレンなどの水に浮くプラスチックは、流されて浜辺に打ち上げられる。すると、紫外線と激しい温度変化にさらされて、次第にボロボロになっていく。体積が小さくなると、浮力の影響も受けにくくなる。おおむね大きさが2mm以下になると、波にさらわれて、海中に流出していく。
マイクロプラスチックには、酸化防止剤のノニルフェノールや、難燃剤の臭化ジフェニルエーテルなど、生産時に添加された有害な化学物質が含まれている場合がある。石油で作られているので、発がん性のあるPCBなど脂に溶けやすい化学物質を吸着する性質もある。
現時点で、マイクロプラスチックに含まれる有害物質の影響が野生生物で確認された例はないが、室内実験では、有害物質を含むマイクロプラスチックを食べた魚の肝機能が低下したり、腫瘍ができたとの報告があるという。魚の体中の脂肪へマイクロプラスチックに付着した有害物質が溶け込むとともに、その魚を食べる大型動物の体内に蓄積される可能性が懸念されている。
高田教授らの研究グループが、カタクチイワシの調査を行ったのは今回が初めて。従来は海鳥などの大きな動物を研究対象としていたが、動物プランクトンとまちがえて魚や貝類といった小さな生物が食べてしまう可能性をふまえ、調査を実施した。カタクチイワシは、横浜市本牧付近の水深20〜25mの海域で、サビキ釣りというイワシやアジを釣る際によく使われる手法で採取した。
カタクチイワシの消化管からは、マイクロプラスチックの一種で、洗顔料などに汚れ落ちを良くするために使われる1mm以下のマイクロビーズも見つかっている。高田教授は「海外でも、米国では五大湖などで見つかり使用が規制されているが、今回の調査で私たちの身近なところで見つかり、日本でもそんなに使用されていたのかと驚いた」と語る。
◆人体への影響は当面気にする必要なし
釣り人が持ち帰って、天ぷらなどに調理されるケースもあるカタクチイワシ。マイクロプラスチックも一緒に食べてしまう可能性もあるが、高田教授によると、マイクロプラスチック自体は体内にとどまらず排泄されるほか、有毒物質についても私たちがいつも口にする水や食物から摂取する量の方が大きいと考えられるため、当面は気にする必要はないという。だが、今後海に流出するプラスチックごみの量は世界的に増え続けると予想されており、楽観できる状況にはない。
一度、マイクロプラスチックが海の中に流出してしまえば、回収するのは困難だ。したがって、マイクロプラスチックを流出させない取り組みが必要になる。海岸に漂着したプラスチックごみの回収も重要だが、高田教授は、代替材料の開発も含めて、プラスチックの使用量を減らす取り組みがより根本的な解決策として有効と見る。
たとえば、耐水性を備える新素材のセルロースナノファイバーが実用化できれば、レジ袋に使われるポリエチレンの使用量を減らせる可能性がある。セルロースナノファイバーは植物から作るバイオマス素材であり、微生物によって分解できる。
プラスチックの使用量そのものを減らすには、プラスチックごみを可能な限り出さない仕組み作りや意識の浸透など、広範囲な取り組みが必要だろう。難しいかもしれないが、かつて梱包材の主流だった発泡スチロールが、現在はダンボールなどの紙の梱包材にある程度置き換わっている点を考えると、決して不可能ではない。
高田教授は「マイクロプラスチックから生物への化学物質の移動や蓄積の仕組みなど、まだ未解明な部分もあるので突き詰めていきたい」として、これからもマイクロプラスチック分野の研究をさらに前進させたいと話している。

気にするな、といっても、いかがなものか。