完全な健康なんてあるわけがない

<医療>人間ドックの「完全正常」は健康?
毎日新聞 11月15日(日)9時30分)

日本人間ドック学会が8月、2014年の統計調査報告を公式サイトで発表しました。その結果、基本検査の全項目で異常のない受診者は男性で5.5%、女性で8.3%しかいなかったそうです(全体で6.6%)。「不健康」な人が増えているのでしょうか。この結果をどう読み解くか、大阪樟蔭女子大学教授の石蔵文信さんに聞きました。

◇診断基準は正しいのか
基本検査の全項目で異常のない受診者のことを“スーパーノーマル”と呼ぶらしい。人間ドックの受診者は313万人余りで毎年増えている一方で、スーパーノーマルの比率は下がり続けている。1984年には29.8%であったのが、今や6.6%である。下がり続けている原因として、受診者の高齢化や生活習慣病関連の判定基準の厳格化、食習慣の欧米化、身体活動の低下が挙げられている。
しかし、男性では肥満、高コレステロール、肝機能異常などが、50歳代をピークに減少傾向にある。単に受診者の高齢化というよりは、年々厳しくなる診断基準が問題かもしれない。普通に仕事や生活をしている人のほとんどが正常でないとされる診断基準は果たして正しいのであろうか? 確かに多くの研究の結果から導き出された値ではあるが、少し見直すことも考えた方がよさそうである。

うつ病から回復でコレステロール値が上がる
ドイツ・ベルリンで10月に開かれた「第12回欧州栄養学会議」で、男性更年期外来に通院している、主にうつ病患者さんの血液データを検討した結果を発表してきた。その内容だが、受診前は高コレステロールの患者さんは少なかった(約33%)が、3カ月以上治療して精神的に元気になってくると高コレステロールの患者さんが約49%まで増えてくる。結局、全体で治療前よりも治療後は総コレステロール値や尿酸値が上がる−−というものである。
うつ状態の患者さんの多くは疲労困憊(こんぱい)して食欲もなく、夜も寝られない生活が続いている。初診の時に血液検査をすると、生活習慣病関連の値が全く正常の方が多い。心身共に健康な中年男性は、暴飲暴食を繰り返し、適当な運動もしない人が大半だろう。このような人が人間ドックにかかると何らかの検査で異常値が出るだろう。

◇「ちょい悪」がちょうどいい?
飽食の時代に、バリバリのサラリーマンが生活習慣病関連のデータ全てにおいて正常値である可能性は極めて低いだろう。
では、スーパーノーマルは本当に正常なのか? 私の個人的経験から、スーパーノーマルで食欲がない時にはうつ状態などの精神疾患を疑うべきであり、ある程度食事をしていても痩せてくるのであれば、がんなどの悪性腫瘍を疑うべきだと感じている。私が検診結果を判定する時は、「ちょい悪」くらいがちょうどよくて、スーパーノーマルに関しては注意深い診察が必要と感じている。

なかなか面白い見解だが、実際そうなのかもしれない。