ホントはいくらですむのか

新国立競技場の「冷房」 設置されていたらどんなものだった?
2020年東京五輪パラリンピックのメーン会場となる新国立競技場は、すったもんだの末、仕切り直しの手続きが進んでいます。一時3000億円を超えるとして批判の的となった建設費は、1550億円を上限に収めることになりました。そのため座席の冷房設備も取りやめて、「かち割り氷でいい」と安倍晋三首相が指示したとの話も出ています。しかし、そもそも座席に設けようとしていた空調とはどんな設備で、それを削ることにどれだけ意味があるのでしょうか。
□座席部分に的を絞る「局所空調」
建築家、ザハ・ハディド氏のデザインを基にした当初案は、約8万人収容の全席に「座席空調」を設置する計画でした。基本設計の概要書には「夏季日中のイベント時の、観客の熱中症対策として」取り入れると説明。各座席の足元から冷気が吹き出され、前の座席の背もたれに当てながら冷やす仕組みが図解で示されていました。広い競技場の中で客席だけを局所的に冷やす、効率的な省エネ技術です。パイプを地下にくぐらせて冷気をつくる「クールヒートチューブ」や、水が蒸発する際の気化熱を利用する「間接気化冷却空調機」などと組み合わせ、日本の先進技術を世界にアピールする狙いがあったようです。
「座席空調」については1990年代から開発が進んでおり、ゼネコンや空調会社が相次いで特許を取得していました。1997年には大阪市大阪シティドーム(現・京セラドーム大阪)が、ネット裏特等席に背もたれの上部から冷風が吹き出す空調付きシートを導入。施工した大林組によると、日本で初めて採用された座席空調システムでした。
2001年に完成した札幌市の札幌ドームは、アリーナ全体に「スタンド席空調方式」を採用。座席下の開口部から冷気、温風が吹き出し、座席周辺に的を絞った「局所空調」を行います。さらにスタンドを12区分して、集客具合に応じたきめ細かい空調管理もしているそうです。
□神戸では「数億円」で設置
これらはいずれも非開閉式のドームですが、開閉式屋根で座席空調を予定していた新国立競技場に最も近いと言えるが、サッカー・ヴィッセル神戸の本拠地である神戸市のノエビアスタジアム神戸です。
2002年のサッカー・ワールドカップ開催の翌年、市立球技場を開閉式スタジアムに全面改修するのに合わせて、3万4000人収容の全スタンドに座席空調システムを導入しました。
「屋根を閉めたときでも息苦しさや不快感を与えないように、少しでも快適さを保とう」という考えで、「どちらかというと消極的な選択」だったとスタジアム関係者。実際、クラブ側が試合時に必要と判断すれば稼働させることになっていますが、夏場でも屋根開放時はあまり必要とされず、今夏も稼働させたのは2試合程度でした。それでも、冷風は3度から5度ほど体感温度を下げる効果を確認。座席下に埋め込んだ特殊なスイングダンパーが上下に作動することで、冷風を座席上部へ、温風は足元へ送風するなどの工夫を凝らしているそうです。
「既にあった技術を組み合わせたので、設置費用は数億円に抑えられました。そもそもこのスタジアム全体の工費が230億円です。座席数は新国立の方が倍ほどの規模ですが、座席空調だけで100億円という話を聞いて驚きました。基本的な考え方がまったく違うのでしょう」と、神戸の関係者はあきれ気味に言いました。
伊東豊雄氏の当初案は「自然換気」
座席空調はまだ珍しい設備だと言え、他のスタジアムは霧状の水を吹き出すミストシャワーなどで熱中症対策をとっています。新国立競技場では冷房設備を削るかわりに休憩所や救護所を増やし、医療体制を強化する方針も示されていますが、どうなるでしょうか。
新国立の当初案見直しを強く求めていた建築エコノミストの森山高至さんは「予算を下げるためには当然の選択と言えるのでしょう」とした上で、「空調という言葉にとらわれると設備的なものをイメージしてしまいますが、自然の温度差や空気の流れを工夫する設計も広い意味での空調。ザハとコンペを競った伊東豊雄さんの当初案は、座席の下に何も入れず、外気を通り抜けさせる自然換気の提案でした。今回、再応募した伊東さんと一騎打ちとなる隈研吾さんも、建物を格子で覆って日陰をつくったり、大胆に緑化したりするなどの手法が得意です。結果的に建物の中にいる人の体感温度が下がれば空調と言えなくもない」と指摘します。
現時点で伊東案や隈案を含めて、再計画の内容は表に出てきていません。従来のコストや設備という固定概念を超え、本当にこの難題を解決する案を見出すことができるのか。選ぶ側の見識や力量もまた問われるはずですが、果たして今回は大丈夫でしょうか。
(THE PAGE 9月23日(水)15時0分)

ホントはもっとおさえられるんじゃないのか。。