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決壊の街、立ち尽くす人々 洪水から一夜、被災地ルポ
決壊した鬼怒川の堤防は、鋭利な刃物で切り取ったようにえぐられていた。大規模な洪水から一夜明けた11日、避難していた付近の住民が「変わり果てた我が街」を目の当たりにした。「明日からどうなるのか」。人々は立ち尽くした。
濁流があふれ出ていた地域は、茶色の泥で覆われていた。
鬼怒川の堤防が決壊した茨城県常総市三坂町。11日、記者が足を踏み入れると、堤防の切れ目から、幅50メートルほどの泥水が東側の住宅地に流れ出し、道路を寸断していた。深さは分からないものの、泥水の流れが速くて渡れそうもない。
高さ約4メートルある「かまぼこ状」の堤防は、鋭利な刃物が入ったように輪切りにされていた。約100メートルにわたってえぐられ、茶色い土がむき出しになっていた。
道路のアスファルトの一部は割れ、足首までめり込む泥に覆われた場所も。残された家はまばら。傾いている家もある。電柱は大きく折れ曲がり、水につかって窓ガラスが割れた車も見える。
「昨日はゴー、ゴーという音とともにすごい量の水が噴き出していた」。家の様子を見に来た付近の住民は、そう振り返った。
堤防沿いに、壁や窓のない2階建ての民家が残されていた。「一日で変わり果てた姿になってしまった。使えるものはほとんど流されてしまった」。片付けをしていた会社員女性(54)は疲れ切った表情だ。
1階部分の支柱はむき出しになり、倒れた壁の間にソファや机、日用品が散乱。床から高さ1メートルほどの壁に浸水の跡があった。
女性は次男(30)と2人暮らし。10日朝から仕事で家を空け、次男も決壊する直前に家から逃げて無事だった。「出かけたとき、鬼怒川の水量が増していたが、雨もパラパラで決壊するとは思ってもみなかった。堤防を完全に信頼していた……」
この日、知人ら4人で戻ってきたが、ほとんど片付けられぬまま夕暮れを迎えた。「この先どうしよう」。そう、つぶやいて、身を寄せる市内の実家に帰って行った。
決壊場所から半径500メートルほどの一帯は、水はほぼ引いているが、泥は残ったまま。国土交通省の調査員が付近を視察して、被害状況を調べていた。道路の脇には、木材や洗濯かごなど家財道具が散乱。その近くをネズミ数匹が走り回り、ナマズが跳びはねていた。
会社員の篠崎幹夫さん(61)は、木造2階建ての自宅の敷地一面に30センチほどたまった泥を、妻と長男と3人がかりでかき出していた。
自宅は決壊場所から数百メートル。前日は水があふれ出した後に、必死になって自動車で逃げたという。茨城県つくば市の親戚宅で一夜をすごし、戻ってきた自宅は1階部分まで浸水したあとだった。
「明日からどうなるのか、まったく見当がつかないね」。篠崎さんはあきれたように、力なく笑った。
朝日新聞デジタル 9月12日(土)0時39分)

人は脆くて弱い。