とりあい奪い合い

アサヒを支える「スーパードライ」に異変発生
「とりあえずビール」が当たり前だった時代も今は昔。ビール離れは止まらず、2015年上半期のビール類市場規模は前年比99.4%と、3年連続のマイナスだった。市場が縮小するなかで限られた消費者をめぐり、ビールメーカーのシェア争いは激しさを増す一方だ。
言わずと知れたビールのトップブランド「アサヒ スーパードライ」も、苦戦を強いられている。
■ スーパードライが頼り
スーパードライは年間1億ケース以上を売り上げ、日本のビール消費量の半分を占める“お化けブランド”だ(1ケース633ml×20本換算、ビール消費量は発泡酒・新ジャンルを含まない)。
1987年の発売当時、ビールの主流はキリンの「ラガー」に代表されるような苦い味。しかし、その常識を覆す辛口のスーパードライは日本中から支持を集め、「夕日ビール」と揶揄されるほど業績不振にあえいでいたアサヒが起死回生を果たすきっかけになった。
現在、アサヒの経営は「スーパードライ一本足打法」と言われる。アサヒグループ傘下にはソフトドリンクや食品を扱う企業も属するが、グループ全体の利益のうち、実に95%はアサヒビールが稼ぎ出す。そのアサヒビールの売上高の6割以上はビールであり、ほとんどがスーパードライだ。その大黒柱が不調に陥っている。
スーパードライの上期の販売数量は前年同期比97.4%で、市場全体の縮小よりも落ち込み幅が大きい。不振の背景には、昨年発売したスーパードライの高価格品「ドライプレミアム」の失速や、今春発売した派生品「エクストラシャープ」の伸び悩みといった商品面の問題もあるが、最大の理由はビール業界2位・キリンの猛攻だ。
キリンは2014年に5年連続でビールの販売数量が前年を下回った。時価総額アサヒグループホールディングス(HD)に抜かれ、初めて業界首位の座から陥落。売上高でもサントリーHDに抜かれ2位に。営業利益ではアサヒ、サントリー両社に抜かれて一気に3位へ転落した。
危機感を募らせたキリンでは、5年間HDの社長を務めた三宅占二氏(現会長)が退任し、事業会社であるキリンビール社長・磯崎功典氏が、この3月からHD社長に就任した。
■ 息を吹き返しつつあるキリン
「今年の最優先課題はビールのシェア低下に歯止めをかけること」。磯崎新社長は、これまでの利益重視の経営をやめ、マーケティング投資や広告費、量販店・外食店への販促費を増やし、販売数量を追う方針への転換を打ち出した。その結果、キリンは業界で唯一、ビール類の上半期出荷数量がプラスとなる”独り勝ち”で折り返した。
キリンが特に投資を集中した主力ブランド「一番搾り」と同価格帯のスーパードライは、その影響を大きく受けた。アサヒビールの小路明善社長は、7月14日の会見で「ビール市場は需要が伸びないゼロサムだから、他社の戦略は当然スーパードライからいかにシェアを奪うかになる」とし、「上期は土俵際まで追い込まれたが、(発泡酒なども含めたビール類のシェアはプラス0.03%で)なんとか踏みとどまった。下期はビールもがんばりたい」と闘志を燃やした。
ただ、アサヒは上期の途中に大手回転寿司チェーンとの取引をキリンに奪われたこともあり、下期はスタートから厳しい状況。ライバルも追撃の手を緩めない。
ビール業界3番手のサントリーは、新商品「ザ・モルツ」を9月に発売し、大型キャンペーンを展開する。ターゲットは30〜40代。パッケージに表記されている’UMAMI’の文字は、スーパードライにある“KARAKUCHI”の文字を想起させる。
ザ・モルツはサントリーの主力製品「ザ・プレミアム・モルツ」より350ml缶で30〜40円程度安い店頭価格を想定している。これまでザ・プレミアム・モルツでは単価が高く取引が難しかった外食店への販売を、新製品で強化する。
■ 酒税法改正で各社ビールに熱視線
また来年度以降、ビール税率を引き下げ、逆に発泡酒・新ジャンルへの税率を引き上げる酒税法改正が検討されているため、ビールメーカーは数ある製品の中でも特にビールを強化しようとしている。アサヒの主戦場では今後も戦いの熱が冷めそうにない。
下期はスーパードライの期間限定品などで巻き返しを図るが、上期の派生品が不発だっただけに回復の決め手となるかは不透明だ。さらに「“スーパードライ株式会社”から脱却しなければならない」(小路社長)として、ワインやハイボールなど、ビール以外の分野で販売拡大を図るものの、こちらもグループの牽引役には程遠い。王者はどう逆境に立ち向かうのか。ビールメーカーの暑い夏が始まった。
東洋経済オンライン 7月20日(月)5時0分)

4社の奪い合いだからねー。