対処療法しかやってない。

この国はきっと滅びる!就活のバカたち 学生もバカなら、面接官も大バカ
すました顔で嘘をつき、〝自己分析〟にハマり、面接で臆面もなく大声を出す学生たち。「面白い奴が欲しい」と、頓珍漢な質問をして悦に入る面接官たち。こんな茶番、いつまで続けるつもりなのか。
□他人に語れるような人生なのか
今年も学生たちの就職活動が佳境に入った。街角でリクルートスーツ姿の若者を見かける機会が増え、思わず心の中で応援するという読者も多いに違いない。
いま、企業の採用面接で必ずと言っていいほど行われるのが〝自己PR〟だ。読んで字のごとく、学生が自らの人となりを初対面の面接官にアピールすることで、面接が始まって最初に行われることが多い。
「では、あなたの強みを教えてください。1分以内でお願いします」と面接官が尋ねると、学生は作り笑顔でこう答える。
「はい。私の強みは、みんなをまとめるリーダーシップがあることです。私はテニスサークルで副部長を務めていました。合宿の企画や引率などを通して、人の意見をまとめることの難しさを学びました。サークルで培ったリーダーシップを、御社でも役立てたいと思っています」
:もちろん彼は、あらかじめ暗記した回答を吐き出しているだけだ。しかも〝副部長〟という部分は誇張されている。実際は平部員だが、どうせわからないだろうと高を括っているのである。このような誇張は「話を〝盛る〟」と呼ばれ、就活生の常套手段だ。
一方面接官も面接官で、ふむふむ、と頷きながらメモをとるフリをしつつ、ろくに話を聞いていない。〝サークル〟〝副部長〟という言葉が出てきた時点で「また同じか」となるからだ。某大手IT企業の採用担当者は、「何百人も面接をこなしていれば、『盛っている』ことはすぐにわかります。少し突っ込むと、話が急に曖昧になる。多いですよ、そういう子は」と語る。
作家の曽野綾子氏は、そんな嘘にまみれた昨今の就職活動の様子を深く嘆いている。
「今の採用面接は、本人の美点ばかりを聞いて、学生は準備した模範回答を淀みなく答える。採用する側も面接を受ける側も嘘っぽい。そんな面接をしたところで、専門知識以外の教養や人としての厚み、個性がわかるはずがない。これでは、本当にその人のことを理解したとはいえません。
自分の美点を人前で恥ずかしげもなく披露できる人は、他者の視点で自分を見ることができていないということです。だから平気で『自分はリーダーに向いています』なんて面接で言ってしまう。周囲は『出しゃばりな奴だな』と思っているかもしれないでしょう。自分のことをこうだと思い込むと、結局は自分勝手で幼稚な自己表現しかできなくなると思います」
都内のW大学に通う男子学生は、ある企業で受験した5人1組の集団面接で、この「幼稚な自己表現」を目の当たりにした。
「自己紹介を求められた途端、端の席にいた男子学生が勢いよく立ち上がり、『はい! 僕は大学で演劇を始めました。ずっと暗い性格でしたが、演劇を始めて別人に生まれ変わることができました! 』と、部屋中に響き渡る大声で話し始めたんです。
みんなあっけにとられていましたが、考えてみると彼の回答はおかしい。演劇をやっていることはアピールできていても、全然自己紹介になっていません」
彼がこんな行動に出た理由は、面接での過酷なPR合戦を乗り越えるために、学生たちがこぞって取り組む〝自己分析〟にある。自己分析とは「これまでの人生を徹底的に振り返り、自分がどんな人間かを語れるようにする」ことだ。就活の現状を是正することを目的としたNPO〝DSS〟代表で人材コンサルタントの辻太一朗氏が解説する。
「『小学校時代にいちばん悲しかったことは何か』『自分の嫌いなところはどこか』『10年後、自分は何をしていると思うか』こういった、一見他愛のない、しかしよく考えると答えようのない設問に答えることが〝自己分析〟だとされています」
□心にもないことを言わせる
つまり先の学生は、自己分析で「演劇」が自分にとって最も重要だという結論に至り、何を聞かれてもその話をしていたわけだ。
「面接対策として、ある程度の自己分析をする必要はあるかもしれません。しかし、没入しすぎて『自分はこういう人間だ』と自己暗示をかけ、それに縛られてしまうことが多い。せいぜいバイトかサークル活動といった浅い人生経験で、自分はこういうタイプの人間だと決めつける。自分で自分の可能性を狭めてしまうことにもなります」(辻氏)
二十歳そこそこの若者が、必死で禅問答に取り組み〝自分史作り〟に励む。その姿は、大人から見ればどこか気味が悪くもある。
周りが見えない就活生は、時に他人にも悪影響を与えてしまう。ある大手銀行の人事担当者は、選考の現状に忸怩たる思いを抱いている。
「最近では、面接にかかる時間を短縮できるため、5人程度の学生に議論をさせるグループディスカッションを行う企業が多い。
しかしこれをやると、学生はみんなグループ内のポジション取りに汲々としてしまって、結局公正な評価ができないことがある。マニュアル本に『場を仕切ると高評価につながる』と書かれているんですね。
そして、仕切りたがる学生に限って人の話を聞こうとしないから、議論も成立しなくなってしまう」
面接で〝変化球〟の質問が飛んでくるのも定番になっている。学生たちは、ここで何とか上手いことを言おうと腐心するのだが、その問いの内容をよくよく見ると、滑稽滑稽なものばかりだ。
都内のO女子大学に通うある就活生は、複数の企業の面接で「いま、1億円手に入ったらどうしますか?」と全く同じ質問をされ、流石に呆れたという。
「『全額寄付します』って答えたときは、面接官に鼻で笑われましたね。次のときは『それを元手に起業します』と答えると、『何の会社を作るの?』と言われて、その後が続かなかった。
『あなたを四文字熟語で表現してください』と聞かれて、『ええと・・・・・・七転八起です。転んでも転んでも諦めません』なんて心にもないことを咄嗟に言ってしまったこともありました」
「新しい祝日を作ってください」「お酒は人生に必要だと思いますか?」「誰かひとり、歴史上の偉人にあだ名をつけてください」---あなたなら、こうした問いに何と答えるだろうか。
「まるで大喜利ですよ。マスコミや広告業界ならまだしも、ごく普通の営業職や事務職募集の面接で、こんな質問をする必要があるんでしょうか」(同・O女子大生)
面接官が、採用とは無関係な質問に終始するケースもある。某食品メーカーを受験した学生はこんな体験をした。
「履歴書の趣味の欄に好きな歌手を書いたら、『キミ、この歌手好きなの?どの曲が一番いいと思う?俺はあのアルバムが好きなんだ』と、一番偉そうにしていた面接官が音楽の話ばかりし始めた。仕事の話はしないまま、よくわからないうちに終わったのですが、結果は合格でした。就活は運と縁なんて言いますが、僕の代わりに誰かが落とされていると思うと・・・・・・」
□〝ハズレ〟の面接官
採用面接の密室の中では、こうした馬鹿げたやり取りが大真面目に行われているのだ。ではなぜ、面接官は変化球、もといビーンボールを投げてくるのか。
「企業側は口を揃えて『準備してきた答えだけでは、人柄や頭の回転が見えない』と言います。だから『自分を動物に例えなさい』といった奇抜な質問で瞬発的な思考力を測ろうとする。でも、これでは芸人に『一発ギャグをやれ』と言うのと同じで、その時面白い事を思いつくかどうか、運にも左右される。裏を返せば、これは面接官の質問力、受験者のことを掘り下げて聞く能力が低いことの証明なんです」(前出・辻氏)
その言葉を裏付けるように、前出のIT企業採用担当者は、選考の内幕を愚痴っぽく話してくれた。
「一次、二次面接では人事以外の社員が二時間程度の研修を受けて、即席で面接官になることが多いんです。ほとんど素人といっていい。ですから、せっかくの答えに『ふうん』としか言えなかったり、話の腰を折ってしまう、的確な質問ができないといった〝ハズレ〟の面接官が少なくない。ハズレに当たったばかりに、残念な結果になってしまう学生さんもいる。正直、気の毒です」
意味不明な質問をされた挙げ句に選考から漏れた就活生にしてみれば、たまったものではない。
また、就活の現場を取材していると、企業面接以外にも奇妙な光景が目につくことがある。
先月、男子学生を対象にした「就活メイク講座」を開いたのは、就職人気ランキング常連の資生堂。「面接での好感度をアップするため、身だしなみのサポートをする」のが目的という。
その資生堂は、自社を志望する学生たちに「入社後、『美意識』『自立性』『変革力』を発揮できるかどうか」(広報部)を求めているらしい。しかし、同社の講座を受講してメイクをした男子就活生から、面接官が「美意識」や「自立性」や「変革力」を感じるかといわれると、疑問である。
説明会で社員の熱烈な社長崇拝を目の当たりにし、ゾッとしたという話もあった。通信会社のS社を受験した女子学生が言う。
「社員と就活生数人の懇談会の席で、ものすごい美人の女性社員が『私は社長の大ファンで、著書を何度も読み返し、面接でもそれをアピールして受かったんです』と目を輝かせて語っていた。一体、この会社は学生のどこを評価して採用しているんだろうと、思わず引いてしまいました」
マニュアル漬けの学生たちと、どこかピントのずれた大人たち。どっちもどっちと言いたくなる就活戦線の実情に、驚き呆れる読者も多いだろう。
なぜ昨今の就活は、これほどまでに〝茶番劇〟となってしまったのか。
「企業の人事担当が優等生タイプを嫌うようになったことが、理由のひとつにあると思います」
そう解説するのは、人事コンサルタントとして活躍する城繁幸氏だ。
「優等生タイプとはテストが得意で、就職活動も受験と同じ戦略で取り組む人たちのことです。リーマンショック以後、企業はこうした優等生タイプより、ユニークな人材を採ることに熱心になり、アドリブ型の質問を面接に導入しました。しかし、そこに最大の誤算があった。そもそも面接官自身が優等生だから、アドリブの質問に対する答えがすぐれているのかどうか、判断できないんです」
面白くない面接官が面白い学生を見定めようとしているとは、笑うに笑えない。
一方で、就活が基準不明の面接重視になった責任は、学生や大学側にもある。
「学生からすると、楽な講義で単位を取り、課外活動に専念した方が面接で話せるネタが増える。一方の教授も、講義なんて手を抜いて、自分の研究時間を増やしたいというのが本音です。企業はそれを知っているから、大学の成績など見ずに面接ばかり重視する。
いい人材を得るためには多くの学生に会わねばならず、勢い就活はどんどん早期化・長期化してしまう。現在の就活の様々な問題点は、いわば、学生、大学、企業による複合的な負のスパイラルによって生まれたものなんです」(前出・辻氏)
□そして今年もまた「バカの季節」
就職活動に学生も大学も企業も振り回され、誰も異を唱えられないまま、いわば〝三すくみ〟で状況は悪化し続けているのである。
昨春の選考に漏れ、8月に辛うじて遅めの内定を得た前出の女子大生は、複雑な心境を吐露してくれた。
「就活って、基準が見えないから、受かっても落ちても何が原因だったのかわからない。だから、就活マニュアルに載っている『いい就活生』像にできるだけ近づくよう努力するしかないんです。意味があるかどうかは考えず、割り切るほかない。でも、いくら『いい就活生』になるために頑張っても『いい社会人』になれるわけじゃない。だから、内定が決まった今も、すごく不安で・・・」
苦労して採用した学生が、いざ入社した後「まるで使えない」と判明するのはよくある話だが、それも当然。なぜなら、企業には自社に必要な人材を見分けるだけの眼力がなく、一方、情報に溺れる学生は「優れた社会人」ではなく「優れた就活生」になるべく、必死に見当違いの努力を重ねているのだから。
本当は、大学時代という貴重な時間を、薄っぺらな就活などに割くべきではないはずだ。数学者の藤原正彦氏も、就活で軽んじられる〝教養〟こそ重要と語る。
「大学1、2年生のころは遊び回っていて、3年になったら就職活動では、きちんとした教養が身につくはずもありません。
企業は、大学の勉強は役に立たないと考えています。確かに、国文学や数学や物理をやっても、企業に入って役に立つとは限らない。しかし、大学できちんと教養を身につけなければ、大局観とか長期的視野は養われないんです。
教養をつけるためには、時間をかけて読書するしかない。その習慣を大学で身につけた人が入社しなければ、企業だって長期的にはダメになりますよ。
政治家や官僚もそうですが、偏差値は高くても、対症療法しか打てない、長期的展望のない人ばかり。だから、今の日本は路頭に迷っているではないですか」
バカが馬鹿馬鹿しい方法でバカを選ぶ。そんな就活を続ける限り、この国はいつか滅びるだろう。

週刊現代」2012年2月18日号より
(現代ビジネス 3月25日(水)12時11分)

気持ちのいい書きぶりではないのは別にして。
企業は人を育てることを放棄した。
入ってくる人材は、夢も希望も抱いていないし、現実におもしろい仕事はそうないだろう。
どっちもどっちという意味合いでは、深層を抉っている気はします。
でも、あんまりバかを連呼しちゃいかんよね。
その中に救世主はいるかもしんないんだし。