えっ?

総務省だけが踊る「SIMロック解除」 端末普及に多くのハードルも…
携帯電話事業者が自社で販売した端末を他社の回線で使えないように制限している「SIMロック」が解除できることになった。総務省はこのほど、来年5月以降に発売する端末から、希望者に対してSIMロック解除を無料で行うよう、事業者に義務付けるガイドラインをまとめた。しかし、これによって利用者が同じ端末のまま好きな事業者のサービスを自由に乗り換えられるようになると期待するのは、いささか楽観すぎるようだ。今のままでは、制度はできてもごく一部の利用者者にしか使われないことになるかもしれない。
■導入は来年5月から
SIMロックとは、スマートフォンなどの端末に挿入されている小さなICカードで、これがないと携帯電話サービスが利用できない。逆にいうと、このSIMカードを入れ替えれば、同じ端末で別のサービスが利用できるのだが、日本の携帯電話事業者は他社のサービスを利用できないようにほとんどの端末のSIMカードにロックをかけている。
従来のガイドラインでもSIMロックの解除が求められていた。しかし、NTTドコモが「iPhone」以外の端末ほぼ全機種で平成23年4月から解除(手数料3000円)に応じている以外は、ソフトバンクは数機種、KDDI(au)は「規格が違うから需要がない」として無視している状態。ドコモの場合、SIMロック解除の件数は3年間で20万件。これは23〜25年度の端末総販売台数6815万台のわずか0.2%に過ぎない。
同社によると「利用者のほとんどが海外赴任者や留学生」という。3000円を支払って、SIMロックを外し、海外で通信事業者のSIMカードを購入して利用するが、海外滞在中は、ドコモの契約も最低料金プランに変更して継続する利用形態が一般的だという。
総務省によると、SIMロック解除の義務化は、意見募集を経て年内に正式決定することになっている。来年5月以降に発売する端末から義務化するのは、携帯電話各社が毎年5月を過ぎてから夏モデルを発表するためで、来年の夏モデル以降に発売される端末の新モデルはすべてSIMロックを解除できるようになる。
■利用実績、たったの0.2%
自分の端末のSIMロックを解除した利用者は、別の事業者のサービスを契約してそのSIMカードを差し込めば、簡単に新しいサービスに乗り換えられる。料金が安かったり、新しい魅力的なサービスが始まれば、使い慣れた端末でそのまま別のサービスを利用できるわけだ。
海外で現地の事業者のSIMカードを買って自分の端末に差し込めば、割高な国際ローミング(相互接続)を使わないで、現地の割安なサービスを利用できるのは大きな利点だ。
総務省はSIMロック解除によって、大手携帯電話事業者からネットワークを借りて割安なサービスを提供する仮想移動体通信事業者(MVNO)による、いわゆる「格安スマホ」の普及も加速し、市場全体の価格押し下げに期待している。
しかし、国内でSIMロックのかかっていない端末が本格的に普及するには幾多のハードルが横たわる。ひとつは携帯電話事業者が携帯に設定している2年契約だ。2年契約を条件に端末価格を毎月の通信費から割り引いて実質0円にするいわゆる“2年縛り”によって、SIMロックを解除したくても、契約の区切りまで解除できない。
契約途中で解除すれば、旧サービスの違約金や割賦支払いに加え、新たに契約したサービス料金も支払うことになり、2重支払いを余儀なくされるからだ。このため、来年の夏モデルから一挙にSIMフリー端末が出回ることはなさそうだ。
“2年縛り”は、携帯電話事業者にとっては顧客を囲い込める最大の仕組み。しかし、2年未満の解約時の違約金支払いで係争が起きたり、2年以上経過しても1カ月を超えると再び違約金が発生する問題などが指摘され、以前から見直し論が出ていた。
■腰が重い携帯電話事業者
そして、この顧客囲い込みの手段が封じられることもあってか、携帯電話事業者のSIMロック解除についての動きは、この期に及んでも鈍い。ソフトバンク孫正義社長は11月4日の決算会見で、「(総務省が正式決定したら)従うが、アップルが日本で売っている(SIMロックをかけていない)SIMフリー『iPhone』は、ほとんど売れていない。SIMロック解除の需要はない」と日本の需要の小ささを指摘し、解除義務化に不満をもらした。
SIMロック解除は当然、iPhoneも例外ではない。例年通りだと、秋には新モデルが発売される見通しで、来秋にはiPhoneもSIMロックが解除可能になる。
ドコモの加藤薫社長も10月31日の決算会見でSIMロック解除について「ドコモの端末が他社のネットワークで動くのかはチェックできていない。詳細に検討しなければわからない」と述べ、SIMフリー端末ではこれまで通りの自社の独自サービスが利用できなくなる、と言いたげ。
■応じないと業務改善命令
さらに総務省が取りまとめたガイドラインでは、端末を購入してから無料で解除に応じるまでの期間をどう設定するかについて、事業者任せになっているのが現状だ。たとえば、事業者によって購入から解除に応じる期間が半年、1年になるなどがまちまちになるケースも想定される。そうなれば、消費者が制度に対し不信感を募らす恐れがあり、制度の実効性が問われることになりかねない。
総務省は正当な理由なくSIMロック解除に応じない場合は、業務改善命令を行う方針を明示しているが、ニーズがどこまで高まるのか現時点では見えにくい状況だ。
「iPhone」に代表されるように、欧米の多くの国ではSIMフリー端末が一般的。日本では携帯電話事業者主導で当たり前のように続いてきたSIMロック端末を「これでいい」と容認する利用者も少なくない。「顧客囲い込み」による割高なサービスを使っていることに鈍感になっているとしたら、利用者側の意識改革も必要かもしれない。
総務省幹部は「SIMロックを解除したい人は頻繁に海外に行く人だけかもしれない」とこぼす。携帯電話事業者がSIMロック解除による不利益の是正に動かなければ、せっかくの制度改正も笛吹けど踊らずの状況になりかねない。
産経新聞 11月20日(木)11時5分)

なんか意外・・・