王国の崩壊?

開幕戦で見えたブラジルの「死角」。ネイマール&オスカルのドリブル依存。
やはり、ワールドカップは一筋縄ではいかない。
今大会の本命と目されるホスト国のブラジルが、苦戦の末に曲者クロアチアとの開幕戦を制した。スコアは3-1。しかも、至宝ネイマールが2ゴール、さらに名手オスカルがクロアチアの息の根を止める3点目を奪った。1失点もやや不運なオウンゴールだったことを考えれば、良いこと尽くめの白星発進のようにも思える。だが、実際には手放しで喜べる内容ではなかった。
サッカー王国に死角あり――。
クロアチアの善戦により、それが鮮明に浮かび上がったように思う。いったい、ブラジルの死角とは何なのか。古来の戦法にたとえれば「城攻め」だ。自陣に引いて堅固な守備ブロックをこしらえる相手に対しての、苦手意識を露呈した感が強い。序盤から慎重に守りを固め、カウンターアタックを狙うクロアチアにボールを「持たされた」ことが、苦戦の始まりだった。
ネイマールとオスカルのドリブル以外、攻め手なし。
ボール支配率はクロアチアの42%に対し、ブラジルは58%。パス成功数もクロアチアの385本に対し、ブラジルは558本と大きく上回った。だが、パスワークの質で勝ったのはむしろ、クロアチアの方である。ボランチルカ・モドリッチを軸にして巧みにボールを回すクロアチアとは対照的に、ブラジルには「ブロック崩し」の起点となる司令塔が見当たらない。前線のアタック陣に縦パスが入らず、業を煮やしたネイマールが球を求めて後ろに引いてくる場面が何度もあった。
この日のブラジルは最前線で待つストライカーのフレッジとウイングのフッキが攻撃の局面にほとんど絡めず、フッキに至っては68分でベンチに退いている。頼みの綱は狭いスペースでも勝負できるネイマールとオスカルの2人だけ。パスワークに安定感の乏しいブラジルにとって、守備ブロックを攻略する手立ては、ネイマールとオスカルのドリブルワークにほぼ集約されている。ブラジルを救ったのは、言わば「個の力」だった。
■堅守速攻のブラジルには、ボールを持たせろ?
そもそも、今大会のブラジルはパスワークを売り物にしたチームではない。全員がハードワークをこなし、堅い守備からのカウンターアタックに勝機を見いだす堅守速攻が持ち味だ。攻めてくる相手には滅法強い。昨年6月のコンフェデレーションズカップ決勝で世界王者スペインを破ったのは、その好例だろう。最終ラインの手前に構えるパウリーニョルイス・グスタボのドイス(2人の)ボランチはボールハントのエキスパートであり、鋭利なカウンターアタックの導火線でもある。
反面、ブラジルが容易にボールを支配できる展開になると、2人のボランチはほとんど見せ場がなくなってしまう。クロアチア戦は、その典型的なパターンと言えた。結果、ブラジルのベンチは63分に精彩を欠くパウリーニョをベンチに下げ、エルナネスを投入している。それでも攻めあぐねる状況を改善するまでには至らなかった。試合後、敗れたクロアチアニコ・コバチ監督が「手応えアリ」といった表情を浮かべていたのも、ブラジルを苦しめた自信からだろう。
■2人を徹底的にマークさえしてしまえば……。
独特の緊張感漂う開幕戦は「内容より結果」とも言われる。ひとまず重圧から解放されたブラジルが2戦目以降、パフォーマンスを上げてくるのも確かだろう。だが、チームに潜在するリスクが消えるわけではない。
この日のクロアチア以上に強力な守備ブロックを誇るチームを前にしたとき、再び苦戦を強いられるのではないか。アタッカー陣の攻め手が極端に不足し、ネイマールとオスカルのマジックに強く依存している点も気がかりである。
ネイマールとオスカルの2人を徹底的にマークし、決定的な仕事をさせなければ、勝機は十分――。開幕戦の戦いぶりを見ながら、静かにほくそ笑んだライバルたちは少なくないかもしれない。
ツボにはまったときのブラジルは確かに強い。だが、ツボにはまらなかったとき、この日のように天才たちが額面どおりの働きをみせてくるのかどうか。死角をさらしたホスト国にとって、ファイナルへの道のりは想像以上に、高く、険しいかもしれない。
(Number Web 6月13日(金)16時31分)

かつてのブラジルなら、そもそもの誤審騒ぎなど無縁だったのではなかろうか。
絶対的な力ではない。
ただ、最大の鬼門はすり抜けたようにも思える。
時が進むにつれ、真相は明らかになるだろう。