冬の日本海限定?

「ダイオウイカ」相次ぎ発見 なぜ厳寒の日本海に現われる?
この冬、日本海の沿岸でダイオウイカが相次いで発見されている。1月以降、定置網にかかったり、海岸に漂着したりしたダイオウイカは7個体。
彼らは普段、光の届かない深い海の生態系に暮らす最大の無脊椎動物だ。「日本海の冷え込み」という自然界のメッセージを海の中深層から私たちに伝えに来ているらしい。
国立科学博物館・標本資料センター・コレクションディレクターの窪寺恒己さんによると、7年前にも日本海でダイオウイカのラッシュがあった。
2006年12月から翌年2月の間に、山口、島根、兵庫、京都、石川の各府県の海岸で6個体が見つかっている。
このとき日本海の水温は例年より下がっていたそうだ。
今冬の発見地は鳥取、富山、新潟、兵庫の4県で、新潟では4個体もが見つかった。
「日本でダイオウイカが発見されるのは、大部分が日本海で、季節は冬なのです」
過去の漂着統計によると1941年から78年までの間に新潟以西の本州日本海沿岸で計20個体の発見例がある。
それを見ると74年末から75年初め、75年末から76年初めの両冬にも6個体と7個体のラッシュがあった。
20個体の月別漂着数は、2月が最も多く、1月、12月、3月の順だった。彼らの出現は、厳冬の風物詩なのだ。
ダイオウイカは、世界の暖かい海の500〜1千メートルの深さに広く分布しているとみられるが、目撃例は欧州、日本、ニュージーランドで多い。
日本の場合は、どうして冬の日本海に多いのか。
窪寺さんは、日本海の特殊な海洋構造が関係しているようだと考える。その300〜400メートル以深には、日本海固有水と呼ばれる1〜0度の冷たい海水がたまっている。
ダイオウイカの適水温は、6〜10度なので、日本海では他の海域より浅めの水深にいるとみられる。
この日本海で、冬に表層が大陸側から冷え始めると、冷たく重い海水が固有水を補給する形で北からダイオウイカの生息層に迫ってくる。
それを避けて表層へ移動したところに強い北西風が吹くと、日本に向けて押し流され、新潟県から山口県にかけての海岸に漂着することになるらしい。
仮説の段階だが、冬の漂着には、こうした仕組みが考えられるということだ。
また、ダイオウイカは、筋肉中に含まれる軽いアンモニアの働きで中立浮力を保っているが、急な水温低下に遭って衰弱し、バランス調整力を失って海面に浮かび上がってしまうこともあるのだろう。
ダイオウイカには謎が多い。大きい個体の体重は100キロを超えるが、年齢は不詳。普通に見つかるサイズのダイオウイカだと3歳くらいの可能性が高いようだ。
イカは交接・産卵すると雌雄とも死んでしまいます」
だから、そう長くは生きられないはずだという。平衡石のリング数から年齢を推定する手段もあるが、大型個体で調べられた例はないそうだ。
生活史そのものが解明されていない。漂着雌の体内から見つかる卵は、直径1〜2ミリと巨体に似合わず小さい。おそらく海面を漂いながら孵化(ふか)するのだろうが、海洋調査でダイオウイカの卵や子供が採集された例はない。ウナギより、もっと分かっていないのだ。
姿形の謎も深い。生息海域によって腕の長さや太さ、体形などに違いがあり、ダイオウイカには、これまで18種の学名が存在した。
ところが、である。世界の海から集めたダイオウイカミトコンドリアDNAの全塩基配列を解読したところ、ほとんど違いはなかったのだ。
その結果、ダイオウイカはアーキテウティス・デュックスという学名の1種だけということになった。昨年の衝撃だ。
複数種が存在すると考えられていたダイオウイカが、皆同じ種だったので、研究者には大きな驚きだった。
米海洋大気局(NOAA)の推定では20万〜150万頭が生息するマッコウクジラは、イカを主食にしている。その30%がダイオウイカなので、世界の海の中深層には膨大な量が暮らしているはずだ。
厳冬の日本海は、その彼らが波間に姿を見せる特異なホットスポットだ。
産経新聞 2月26日(水)10時29分)

つまり寒いのは苦手、と。