的確かもしれない

“香川ジレンマ”のデジャヴ。マタ活かせぬモイーズ、無駄だった63億円の投資
■連携なく、あまりに消極的
「Moyes doesn’t like creative players.」(モイーズはクリエイティブな選手が好きじゃないんだ)
これは、香川が出場機会を与えられていなかった今季開幕直後、親交あるデイリー・テレグラフのマーク・オグデン記者が、つぶやくように発した言葉だった。
妙なことを言うなと思った。この時は、モイーズマンチェスター・U監督に就任したばかりで、その方針、スタイルをつかみきれてなかったということもあって、“どこにクリエイティブな選手を嫌う監督がいるのだろう”と思った。
しかし2月12日のアーセナル戦で26試合を消化して、モイーズの全貌がほぼ見えた今、この「好きじゃない」を「使い方が分からない」と置き換えると納得できる。
9日、フラム戦の後半ロスタイムに痛恨の同点弾を食らったモイーズは、この試合で心底失点を恐れた。それは、先週の日曜日、リバプールに5ゴールを奪われたアーセナルベンゲル監督も同様だった。
アーセナルはポゼッションを支配したにも関わらず、ここぞというところで最前線に人数をかけなかった。一方のマンチェスター・Uはもっと消極的で、ファン・ペルシー以外はボールを越えて相手側に侵入せず。全く押し上げなかった。
こんな守備的な展開では、中盤にスペースがなくなり、膠着する。とくにボールを持たないマンチェスター・Uは、パスカットしてそこからボールを奪った選手がドリブルで前に出るという、あきれるほど連携がない戦い方をした。
■守り重視の試合でマタ。不可解な選手起用
そんな試合でマタは左サイドで先発。自慢の左足はサイドライン側にあり、直接ゴールは狙えない。縦に抜ける能力はない小さなスペイン人にとってはなかなか見せ場がつくれないポジションだった。
守りを重視し、ファン・ペルシーの一発に頼るなら、どうして左右にスピードがあるウィンガーを入れないのだろう。バレンシア、ヤング、もしくはバレンシアヤヌザイでいいではないか。ファーガソン監督ならそうしただろう。
しかしモイーズはこの辺が中途半端。守ってカウンターという試合に連携を売り物とする63億円男を押し出した。
その結果は、この日スカイスポーツの解説者だった元アイルランド代表DFで元リーズ監督のディビッド・オレアリー氏の「I didn’t see him」(私は彼を見なかった)という一言に集約されていたのではないか。
マタは交代でダッグアウトに下がる瞬間、明らかにモイーズから顔を背けた。あの瞬間、何もできず、自分が完全に消えた試合をどう反芻していたのだろうか。
ただ、このアーセナル戦で、今のモイーズのスタイル、とくに相手が強い場合には、マタ、そして香川のような、仲間との連携で活きるクリエイティブなタイプは、結果が出せないことがはっきりした。
この試合でマタが機能しなかったのは誰の目にも明らかだった。ちなみにスペイン代表MFはチェルシー時代、アーセナル戦6試合に出場し、4ゴールを決めている。
■63億円の投資効果はあったのか?
当然、試合後の会見でも地元記者からマタのパフォーマンスに対し、「どうも新しいクラブのサッカーに対応し切れていないようだが」という質問が飛んだ。
すると、モイーズ監督は「彼は良くプレーした。この3〜4戦でうちのベストの選手だろう。際立って素晴らしい。交代は、ラスト20分でアドナン(ヤヌザイ)が、(マタとは)違った形で相手の問題になるところが見たかったからだ。マタは本当に良くやっている。確か2〜3アシストも決めているはず。彼の加入に関しては本当に喜んでいる」と語った。
彼が「ベストの選手」ならなぜ、後半30分の時点で交代させたのだろう。ファーディナンドが後半1分で入ったのはラファエルの負傷が原因。とすれば、マタは交代の1番手だった。
交代理由に関しては、「違った形で相手の問題になるところが見たかった」と話しているが、正直、この試合でマタが相手の「problem」(問題)になっていたとは思えない。攻撃陣の中で一番効果的なプレーができていなかった。だから代えられたのだ。
今季、マタはモウリーニョに干された。出場機会を与えられても、サブを送られた。モイーズから顔を背けた瞬間、スペイン代表の頭の中には、そんな屈辱の記憶がよぎっていたのではないだろうか。
だいたい、トップ下は、4-4-2への変化ということを考えれば、ルーニー、香川、ウェルベックヤヌザイ、と人材が揃っていた。そこにクラブ史上最高金額の63億円を投入してマタを獲得。ところが、小さなスペイン人加入後の成績は1勝1敗2分。とてもじゃないが、投資効果があったとは言いがたい。
というより、やはりマタ獲得は1月末の“パニック獲得”だったのではないか。
■批判避けるためのマタ獲得か?
移籍解禁前、マンチェスター・Uの補強ポイントはDF陣といわれていた。黄金のセンターバックコンビだったファーディナンド、ビディチに加え、左SBのエブラに衰えが目立ち、右SBはまだラファエルがレギュラーをつかみ切れていない状況で、スモーリングバレンシアがこの位置を守ることも多い。
しかしマンチェスター・UはそんなDF陣をほっといて、マタに63億円を使った。
それは、このまま補強せず、欧州CL出場権を逃した場合、クラブの対応が批判の対象になるからだろう。
もちろん、衰えが目立つDFとともに、中盤に“創造性が必要だ”という指摘があったが、それは選手より監督の責任だ。
チームのスタイルの決定は監督の権限。クロス偏重の創造性がないサッカーを選択したのはモイーズである。
アーセナル戦後、英各紙には「マタのベストポジションはトップ下。しかしルーニー優先でスペイン代表MFが真価を発揮できない」といった、どこかで読んだような論評が展開されている。
そう、結局モイーズは、63億円を使って、香川のジレンマをマタに味わらせただけなのである。
フットボールチャンネル 2月16日(日)9時27分)

結局モイーズがダメなんじゃん。