そこまで悪い数字なんですかね

<キムタク>岐路に立つ41歳 主演ドラマ、視聴率苦戦 「大人の役者」へ脱皮の時?
◇アラフォー向け恋愛物語見たい/主役譲って悪役に挑んでは
「高視聴率男」の異名をとった木村拓哉さん主演のドラマが“苦戦”を強いられている。1990年代からずっと日本のドラマ界をリードしてきたキムタクも41歳。SFアクションという異色の設定がゴールデンタイムのドラマファンの嗜好(しこう)に合わなかったのか、それとも−−。
「オバサンにはついていけないかも」。放送作家山田美保子さん(56)はSMAPファンにして大のドラマ好きだが、あのドラマを初めて見た時は複雑な設定とスピーディーな展開に戸惑った。
「あのドラマ」とはTBSで日曜午後9時から放映されている「安堂ロイド〜A.I.knows LOVE?〜」。木村さんが天才物理学者と100年後の未来から送り込まれたアンドロイドの2役を演じる。柴咲コウさんとのツーショットシーンもあるが、敵のアンドロイドと肉弾戦を繰り広げるところは映画「ターミネーター」を思わせる。
最終回の視聴率が42・2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区、以下同じ)を記録した「半沢直樹」の後番組だけに注目されたが、別局のプロ野球日本シリーズの中継と重なったこともあり、視聴率は初回(10月13日)の19・2%から4話(11月3日)の10・3%まで低下。「ヒトケタ目前」と週刊誌やインターネットで取り上げられる事態に。5、6話は11・5%前後で踏みとどまっている。
ドラマ評論家の成馬零一(なりまれいいち)さん(37)は「特異な設定で、SF特撮アクションの表現などがついていっていない感じがします。ただ、作り手が木村さんをどう使いたいかは伝わってくるし、木村さんもその期待に応えている。視聴率の伸び悩みが、全て木村さんの責任みたいに言われるのは気の毒に思う」と話す。
1話にたじろぎ、2話はリアルタイムで見なかったという山田さんはどうか。「再放送を見て概要をつかみ、3話からは必ず見ています。だいたい、あの役を木村さん以外の誰が演じられますか。撮影現場では座長のようにリーダーシップを発揮しているようですし、まだまだ全然さびていません。自戒を込めて『見てから判断しましょうよ』と言いたい」。人気者ゆえのバッシングと憤るのだ。
今さらだが、木村さんといえば96年に「ロングバケーション」が大ヒット。以降、TBSの「日曜劇場」やフジテレビの看板ドラマ枠「月9」などで出演するドラマの多くが高視聴率をマークしてきた。私生活では00年に工藤静香さん(43)と結婚し、2人の娘をもつ父親でもある。
過去、「ギフト」(97年)では記憶喪失の青年を、「眠れる森」(98年)ではヒロインにつきまとう“悪役”を演じたことも。成馬さんは「自然体の芝居が評価されて出てきた人ですが、00年代以降、『HERO』(01年)というタイトルに象徴されるように、パイロットやレーサー、総理大臣などスーパーヒーローばかり演じるようになり演技の幅が狭まってしまった」と指摘。「人気は衰えていませんし、とって代わる若手も出てきていません。テレビ全体の視聴率が低下傾向にある中で、それでも視聴率を稼げる貴重なタレント。そのため、テレビ業界はいつまでも彼をスーパーヒーローの座から降ろしてあげられないのです」と解説する。
今、キムタク・ドラマをよく見ているのはどういう人たちなのか。山田さんは「SMAPのコンサートに行くと、今や観客は親子3代。F2層(35〜49歳の女性)の後半からF3層(50歳以上の女性)の前半にかけての80年代からトレンディードラマを見てきた世代も多い」とみる。「木村さんは年齢より10歳ぐらい若く見えますが、ドラマは若者向けでなくていい。アラフォー、アラフィフ世代に向けた日常的な大人の恋愛ドラマを見てみたい。バツイチで2回目の結婚をするとか、同窓会で再会して、みたいな」と関心は早くも次回作に。
安堂ロイドでは「俺は破壊されるのが前提の消耗品だ」というセリフが出てくる。成馬さんは「これは『スーパーヒーロー、木村拓哉』という存在を1回終わらせようとするドラマなんじゃないかと、見てて感じるんです」。
スーパーヒーローから変わるとすれば、どうすればいいのか。「今は『美魔女の男性版』のよう」と評するのは漫画家の倉田真由美さん(42)。「この20年ぐらい、『ああ、老けちゃったな』という劣化を全く感じさせません。けれど、このまま50代、60代になれば、いつか『痛いオジサン』になってしまうかも」と先行きを案じる。「ここらで一気に『かっこいいオジサン』に変身を図ってはどうでしょう。今でも長髪が似合ってしまうのですが、あえて渡辺謙さんみたいに超短髪にしてみるとか、若者の雰囲気を払拭(ふっしょく)するような自己演出をしてみたらいいと思います」
かつて萩原健一さん(63)は20代の初めに斎藤耕一監督の映画「約束」(72年)で岸恵子さんと共演、沢田研二さん(65)は30代の初めに長谷川和彦監督の映画「太陽を盗んだ男」(79年)で原子爆弾を作る理科教師を演じ、グループサウンズのアイドル歌手から大人の役者へと脱皮を図った。
映画評論家の白井佳夫さん(81)は「昔からアイドルはそれで苦労してきました。個性的な映画監督の下で、それまでのイメージをぶち壊すような大胆な転身を試みるしかありません。木村さんも山田洋次監督の『武士の一分』(06年)に出ていますが、結局そのままに来てしまいました。『あの人、昔、アイドルだったんだってね』なんて言われるぐらいにならないと。才能がある人だけに、今のままではもったいない」と話す。
SMAPの他のメンバーはイメージチェンジに挑んできた。例えば、稲垣吾郎さん(39)は三池崇史監督の映画「十三人の刺客」(10年)で“悪役”を演じ、毎日映画コンクール男優助演賞を受賞。主演じゃなくても、独特の存在感を示せる役者として評価を受けた。「一人のスターが物語を引っ張る時代は終わりました。木村さんも主役の座は若手に譲って、2、3番手の位置で悪役に挑んだ方がドラマ全体も厚みが増すし、本人にとっても俳優として幅を広げることになる」と成馬さん。一方、山田さんは「吾郎さんはそれで一皮むけたけど、木村さんは未来永劫(えいごう)、主演じゃなきゃだめなんです」とファンの思いを代弁する。
木村さんは安堂ロイドの役名「沫嶋黎士(まつしまれいじ)」のブログで“大好きな大先輩”から「大丈夫、直球勝負でやり抜いて!」と励まされたことを明かし、「よぉ〜し!絶対、やったる!!」と書き込んだ。二枚目といえども、いや二枚目だからこそ、上手に年を取るのは難しい?
毎日新聞 11月20日(水)17時59分)

結局は、作り手側の問題なんじゃないか、と。