何でも活用できる

緑に光る魚、汚染物質の追跡に活用
遺伝子組換えにより身体の内側から緑の光を発する魚が作られた。体内での汚染物質の挙動を理解する上で役立つという。
内分泌攪乱物質(いわゆる環境ホルモン)は、プラスチックをはじめとする多くの工業製品、さらには多くの女性用避妊薬にも含まれる成分だ。
このような化学物質は性ホルモンの働きを模倣し、人間や動物の生殖にさまざまな問題を引き起こす。これまでの研究で、内分泌攪乱物質により魚の性別が変化することが判明しているほか、人間についても、精子数の減少、乳癌や精巣癌の発生と内分泌攪乱物質との関連が指摘されている。
しかし、こうした物質が人間や動物の体内でどのような挙動をみせているのか、その追跡はこれまで困難だった。そこで研究チームでは、遺伝子組み換えにより内分泌攪乱物質が存在する箇所が光るゼブラフィッシュを作り出した。これで被害を受けている恐れのある身体の部位がはっきりとわかるというわけだ。
イギリス、エクセター大学所属で今回の研究を主導したチャールズ・タイラー(Charles Tyler)氏は、この試みをこう説明する。「基本的には、時間をかけて、遺伝因子を対象となる魚の体内に埋め込んでいく手法だ。これらの遺伝因子は、体内でこうした化学物質が浸透し、活動する場所を突き止める目的で、特別に設計されたものだ」。
「この遺伝機構から生成されるタンパク質は、遺伝子撹乱物質が身体に働きかける機能には干渉しないが、蛍光顕微鏡のもとでは緑の蛍光を放つ。これにより、身体の組織の中で影響を受けている場所を特定できる仕組みだ」。
これにより、人間についても「より“合理的”な方法で、(汚染物質が)健康に影響を与える可能性がある場所を特定できる」とのことだ。
◆“光る魚”が裏付ける過去の研究
タイラー氏が率いるチームは、ゼブラフィッシュの遺伝子を組み換え、さまざまな濃度の化学物質にさらした。これらの化学物質は性ホルモンのエストロゲンに影響を与えることが知られているもので、経口避妊薬に含まれるエチニルエストラジオール、塗料や産業用洗浄剤に用いられるノニルフェノール、多くのプラスチックに含まれるビスフェノールABPA)などがあった。
これらはいずれも淡水の汚染物質として一般的なもので、魚類の性転換や繁殖力の低下、さらには人間の癌の増加といった問題と関連があるとされている。
今回の研究では、さまざまな濃度の種類の違う内分泌攪乱物質に遺伝子組み換え魚をさらした後、顕微鏡を使ってこれらの小さな魚の臓器のうち、どこが化学物質により光る(つまり、反応を見せる)かを確認した。
このデータは、体内のさまざまな組織や臓器に対し、化学物質が影響を与え始める境目を見極めるのに役立つはずだ。
実際、蛍光を発する魚の観察は、過去の発見を裏付ける役割も果たしている。こうした例としては、ビスフェノールAと心臓疾患の関連性などが挙げられる。
「実験に用いた魚でも、ビスフェノールAへの反応では、心臓部分が特に光っていることが確認できた。この結果から、我々も心臓に注目し、ここで起きている現象のメカニズムの解明に取り組むこともできる」とタイラー氏は解説した。
タイラー氏らの研究チームではさらに、遺伝子組み換え魚の生体構造の中でも、目や骨格筋など、心臓以外で化学物質に反応して光を発した部分に着目した。
「多くの場合、これらの化学物質は肝臓や睾丸、卵巣などに影響を与えていると思われてきた。しかし今回の魚を使った研究では、脳の一部を含む、幅広い組織でその存在を確認した」。
今のところ、この蛍光技術が使用可能なのは、生後6日以内の稚魚に限られている。この時期の稚魚なら、蛍光の観察に影響を与えかねない色素がまだ表皮に発生していないからだ。
「次の段階は、表皮に色素を持たない系統の魚で、こうした(蛍光を発する)魚を生み出すことだ」とタイラー氏は話す。実現すれば成体の魚でも、蛍光反応を観察できるはずだという。
発光する魚についての研究は、「Environmental Health Perspectives」誌の電子版に4月18日付で掲載された。
Brian Handwerk for National Geographic News
ナショナルジオグラフィック式日本語サイト - 4月24日(火)20時2分)

遺伝子組み換え技術は、すごいけど、なんか怖いね。
やっぱ。