太陽の謎

暗黒物質、太陽近傍には存在せず?
最新研究によると、太陽の周辺では、なぜか暗黒物質ダークマター)の存在を示す観測結果が得られなかったという。目に見えない暗黒物質など幻想にすぎないという懐疑派には有利な情報になるかもしれない。
「この結果を受けて、だから暗黒物質など存在しないと主張する人が出てくるだろう」と今回の研究を指揮したチリ、コンセプシオン大学の天文学者クリスティアン・モニ=ビディン(Christian Moni-Bidin)氏は話す。「今回の観測結果だけでは、暗黒物質が存在しないことの証明にはならない。それでも、われわれが予想していた、必要としていた場所に見つからないことは確かだ」。
暗黒物質の粒子は現行の技術では検出できないが、銀河や銀河団などの目に見える物質に及ぼす重力効果から、この物質は宇宙のおよそ4分の1を占めると考えられている。
1930年代にその存在が示唆されて以来、暗黒物質は銀河形成理論に不可欠な要素となっている。暗黒物質が目に見えない足場のような役割を果たし、その周りで通常の物質が重力によって結合することで、恒星および恒星の集まりである銀河などが形成されるという理論だ。
現行の銀河の形成および回転モデルでは、天の川銀河暗黒物質の雲(ハロー)に包まれているとされる。このハローがどのような形状をしているのかは不明だが、太陽の周辺領域には相当量の暗黒物質が存在すると予想されていた。
◆恒星の動きが暗黒物質の存在を否定?
今回の研究において、モニ=ビディン氏らのチームはチリにあるヨーロッパ南天天文台(ESO)運営のラ・シヤ天文台と、同じくチリにあるラスカンパナス天文台を使って、太陽から最大1万3000光年の距離にある、400あまりの赤色巨星の動きを3次元でマッピングした。
夜空の恒星はじっと動かないように見えるが、実際は常に動いている。他の恒星やガス雲、暗黒物質の塊など、近くにある物体の重力効果によって絶えず押し引きされているためだ。
研究チームは恒星の動きを計測し、これらの恒星が目に見える物質にのみ影響を受けていた場合に予想される動きと比較した。
すると驚いたことに、2つのデータはぴたりと一致した。すなわち、太陽とその近傍にある物体の動きを説明するために、暗黒物質は必要ないということになる。
「これらの観測結果は、少なくともこの範囲(の宇宙)において、暗黒物質は存在しないことを示している」とモニ=ビディン氏は述べている。
◆研究結果の“アキレス腱”
とはいえ、今回の研究結果には懐疑的な声もある。ハーバード大学天文学部長で、今回の研究には参加していないアヴィ・ローブ(Avi Loeb)氏によると、それはこの研究が単純化のために用いている10項目の仮定に原因があるという。
例えば研究では、動きを計測した恒星が天の川銀河中心部の周囲を回る平均速度について、恒星が中心部からどれだけ離れていても速度は一定で変わらないと仮定している。恒星の動きに影響を及ぼす因子の全体像を示す上で、この速度を知っていることは重要だ。
「重力を修正しない限り、この仮定自体が、暗黒物質がなければ成り立たない」とローブ氏は電子メールでの取材に対して述べている。
暗黒物質が存在すると考えられる理由の1つは、銀河の外縁部にある恒星が、より内側にある恒星と同じ速度で銀河中心部の周囲を回っているとみられることだ。重力の法則に従えば、銀河の外縁部をこれほど高速で移動している恒星は、宇宙空間に放り出されるはずだ。しかし、暗黒物質の質量が加わることで、恒星は銀河にとどまっていると考えれば筋は通る。
それとはまた別に、重力そのものの振る舞いが、銀河中心部からの距離によって変化するという説もある。しかし、「重力を修正するとなると、(今回の研究の)モデリングにどの方程式を適用すべきかわからない」とローブ氏は述べている。
「通常と異なる主張には、通常と異なる証拠が必要だ。研究が用いている10の仮定は、暗黒物質は太陽近傍には存在しないという主張のアキレス腱になっている」とローブ氏は言う。
研究著者のモニ=ビディン氏自身は、広く支持されている銀河理論にとって暗黒物質は依然として非常に重要な概念であるため、その存在を否定するのはまだ早いと考えている。
「(暗黒物質の)存在を否定できる段階には程遠い。現時点では、他の理論で説明できない多くの観測結果を説明する上で必要なものだ」。
暗黒物質に関する今回の研究成果は、「Astrophysical Journal」誌に近く発表される予定だ。
ナショナルジオグラフィック式日本語サイト - 4月20日(金)15時16分)

この結果がもたらすものは何なんでしょう・・・