闇を楽しめ

巨大地震発生で変わる電力使用への意識 節電された街、7割以上が「差し支えない」
東日本大震災から1ヵ月を迎えた昨日、発生時刻に各地で黙祷が捧げられた。早かったようにも長かったようにも感じる1ヵ月。人々は今、どんなことを考えながら前に進もうとしているのだろうか。
インターワイヤード(東京都品川区)が運営するネットリサーチ「DIMSDRIVE」は、東日本大震災後の品不足や計画停電下の生活についてアンケートを行った。3月25日〜28日に実施。災害指定区域(青森県岩手県宮城県福島県茨城県)以外の全国に住むモニター9948人から回答を得た。
節電が呼びかけられている今も、駅などの公共施設や店舗、企業で照明を落とすなどの措置が取られている。薄暗い地下鉄やネオンの消えた繁華街を見て「東京ではないみたい」と感じた人も多いのではないだろうか。
しかし、アンケートで「節電された街」についての意見を聞いたところ、「非常に不便・不都合だと感じている」4.2%、「やや不便・不都合だと感じている」 12.8%と計17%にとどまり、約半数近い47.8%が「不便・不都合だと感じることもあるが、差し支えない」と回答。28.6%は「まったく不便・不都合だと感じていない」と回答した。他国と比べても明るいと言われる東京の夜。「普段からこのくらいの明るさでもいいのでは?」という声も聞いた。
個人的には、「暗い中でのライブを楽しんでほしい」と節電ライブを行ったミュージシャンや、「節電はメイクも変える?」という「Vogue」ディレクターのブログエントリが興味深かった。
コンビニやドラッグストアなどでは、明るい照明によって商品が映え、購買意欲を刺激するとも言われる。照明やネオンを落とすことが売り上げ低下につながると見る向きもあるだろう。しかし、節電ライブや節電メイクの例のように、「いつもと違う」ことから発想をふくらませることもできる。「節電しなければならない」ではなく、「節電だからこそできること」にも意識を向けたい。
また、3月11日からアンケート実施時までで「生活で困っていること」を聞いたところ、最も多かったのが「水・食料が入手しにくい」(24.4%)こと。そして「懐中電灯・ラジオ・電池が入手しにくい、入手できない」(22.2%)、「ガソリン・灯油が入手しにくい、入手できない」(19.9%)が続いた。「入手しにくい物は、どのようにして手に入れていますか」という問いには、46.3%の人が「売っている店を探し回る」と答えた。
買い占めの問題も指摘されたが、現在はアンケート実施期間中より幾分状況が落ち着いてきたようにも見える。1ヵ月が過ぎた今、気になるのは「地震(余震)による不安・ストレス」(19.8%)、「放射能による不安・ストレス」(16.1%)だ。首都圏では震災から1週間前後は自宅待機を命じる企業もあったが、ようやく業務が落ち着いてきたかに見えるこの時期に、止むことのない余震や目に見えない放射能への不安にどっと疲労を感じている人もいるのではないか。また、情報の混乱や、震災による経済悪化の不安、被災地の現状を見るたびに襲う無力感なども、知らず知らずのうちにストレスとなって蓄積されている。
自分や自分の身近な人は、震災のストレスを溜めていないか。心が麻痺してしまってはいないか。そうした状況下でこそ、桜を愛でる心の余裕は、復興に必要なもののひとつではないかと思う。
(ダイヤモンド・オンライン - 4月12日(火)10時3分)

東日本大震災 「暗さ」「陰影」歓迎するムードへ 東京の夜は明るすぎた
東日本大震災の影響で、首都圏を中心に繁華街のネオンが消え、経済活動が沈滞ムードに包まれる。一方で、節電が暗さに対する日本人の意識に変化をもたらしている。「陰影」という日本建築の概念に光が当てられ、夜の暗さを再評価する機運が出てきた。「東京の夜はこれまで明るすぎた」−。そんな自戒の念が聞こえてくる。
東日本大震災から1カ月近くが過ぎた4月上旬、東京都内の駅構内で「地下鉄の暗さ」について、2人の中年男性が気になる会話をしていた。
「震災以降、東京の地下鉄はまるでロンドンのように暗くなった」
「ヨーロッパを旅すれば分かるけど、駅の構内はこんなもの。この暗さにもだんだん慣れてきた」
企業や家庭で進められる節電の励行。夏場に向けた電力抑制を控え、まちの暗さを受容する感性はさらに歓迎されていいはずだ。
昼から夜へ、明るさの谷間に当たる「たそがれ時」に対する意識は、国民性や気候風土が反映される。日本の夜の明るさや派手なライトアップに長年、疑問を投げかけてきた東京工大の乾正雄名誉教授(建築工学)によると、日本では日没の1時間前に照明をつけるが、ヨーロッパではほぼ日没の頃。明るさの余韻を惜しむかのように照明をなかなかつけないという。
乾名誉教授は、過度に明るい夜間の環境が「人に常に動き回ることばかりを強いて、じっと考える能力を喪失させたことはうたがいようがない」と、『夜は暗くてはいけないか』(朝日新聞社、1365円)で指摘する。確かに、こうこうと輝く蛍光灯のもとでは哲学することは向かない。
昭和8年、作家の谷崎潤一郎(1886〜1965年)は47歳のときに日本家屋が織りなす薄暗さの美について論じた『陰翳(いんえい)礼讃』を刊行した。この一冊は、海外の建築家の間でも建築思想の「手本」として読み継がれてきた。
米国の現代美術家ジェームズ・タレルも影響を受けた一人。設計した宿泊・体験施設「光の館」(新潟県十日町市)の館内には、光を知覚するさまざまな仕掛けが施されている。「来館者は寝泊まりしながら、自然光と人工光が織りなす『陰影の美』の作品世界を肌で触れることができる」(同館)。明るさに慣れた都会人に、夜の闇と隣り合わせだった時代へのタイムスリップが人気を呼んでいる。
◆無駄な光なくす
一方、全国に先駆けて、平成元年に「光害(ひかりがい)防止条例」を制定した岡山県美星(びせい)町(現井原市)。天文台のある美星町の区域内に適用される条例で、過剰照明の自粛を呼びかけ、夜10時以降は各家庭でも消灯することを励行する内容だ。条例には「美しい夜空を見よう」という目的があり、星の見え方は市民のモラルにかかっている。
美星天文台の綾仁(あやに)一哉台長は「暮らしの中から無駄な光をなくし、照明を水平よりも上に向けないようにするだけでも星はきれいに見える。都会の空に本来の夜空が戻ることは、節電による一つの形といえる」と評価する。
谷崎の『陰翳礼讃』にある一節。〈暗い部屋に住むことを余儀なくされたわれわれの先祖は、いつしか陰翳のうちに美を発見し、やがては美の目的に添うように陰翳を利用するに至った〉
「闇の世界」を完全に忘れ去る前に、現代人が心に留めておきたい警句といえる。
産経新聞 - 4月18日(月)7時56分)

この傾向が続けば、原発は本当に不要なものになるかもしれない。