国家よりも自分の会社

“就活早期化是正”議論は相変わらずヒトゴト、日本が壊れる!
新卒の就職活動が早期化することの弊害を憂えて、その是正を求める議論がここのところまた盛んになっている。しかし、「そうだ、そうだ」「大いにやれ」「政府も口を出して来ているから、今度は本物だろう」などと思ったら大間違い。
よく議論の中身を検討すると、いかに議論がヒトゴトで上滑りか、意外と早期是正に反対する勢力がいるものだなどが見えてきて、今回の議論も従来と同じに話題だけで終わってしまう心配が大いにありそうだ。
以前(8/25)この連載で「新卒一括採用は日本を蝕む」を取り上げ、早期就活問題についても若干議論したが、今せっかく話題になっているのだから、この機会に楽観論を戒める意味でも、ダメ押しの議論をしておきたい。
まず、最近の就活早期化是正議論がどれほどいい加減で、ヒトゴトで、本気の是正実現を視野に入れていないかを見て行こう。是正に一応は賛意を示す者の本音が見えてくる。
商社42社が加盟する日本貿易会は11月17日、大学新卒者の採用活動を始める時期を4カ月ほど遅らせる案をまとめ、経済界で足並みをそろえるよう日本経団連に提言した(朝日新聞’10.11.18.)。就職活動で学生の学業がおろそかになる現状に対する危機感からだ。2013年入社の新卒から、大学3年生の10月ごろに始まる企業説明会や学生の企業訪問を翌年2、3月に、4年生の4月から始める試験を8月からに、それぞれ4カ月ずらすというもの。
提言元の日本貿易会は、本気だろう。しかし、周囲の反応はヒトゴトだ。まず、日本経団連米倉会長は「さまざまな企業と今後、早急に検討する」と述べ、実現性については「経団連が求めたとしても企業によっては対応が難しいと思う」と(日本経済新聞’10.11.23.)、前向きにどう取り組むかということよりも、明らかに逃げの姿勢だ。
一方、商工会議所の岡村会頭は18日の定例会見で、「要請には応えたい」としながらも、「大手企業への就職活動が終わった段階から中小への活動が始まる従来の傾向から考えると、中小の活動がさらに遅れる」と指摘、中小企業に与える影響に懸念を示す(毎日jpサイト ’10.11.19.)。日本貿易会の提言を実現するために、中小企業の立場から何を要求し、どんな手を打つかという前向きの姿勢が見られない。
全国銀行協会小川会長は17日会見で、個人の意見として「一業界だけで取り組んでも実効性に欠け、横断的な議論に参加していきたい」と様子見の姿勢だ(毎日jp)。生命保険協会渡辺会長は「経団連の検討の……方向性に従っていく」(時事通信社サイト)と、積極的でない。石油連盟天坊会長は「就職難の中で早く会社訪問したいと考える学生と会わないことは難しいが」「一定のルールはあったほうがいい」と(日経QUICKニュース)、これも歯切れが悪い。どこもかしこも、就活早期化によって学業がおろそかになって学生の質低下が心配されることには無関心、自社さえ良ければいいのだ。
肝心の政府も政府、外交辞令のコメントだ。高木文科大臣は「喜ばしい。経済界に広がるよう要請していきたい」と評価したというが(日本経済新聞’10.11.19.夕刊)、かねてから重大な問題意識を持っていて解決に意欲を示す、という姿勢からはるかに遠い。
一方でそれを裏付けるように、早期化是正反対論が意外に少なくない調査もある。主要100社経営トップ対象の朝日新聞調査(’10.11.8.〜19.実施)で、「採用時期開始を遅らせる」が39%だが、「従来通り」が31%もあり(無回答30%)、「採用活動を遅らせれば、業界規制対象外の外資系企業に優秀な人材が流れる」という意見がある(朝日新聞’10.11.28.)。
早期採用の主因である新卒一括採用に関する意識調査(日本経済新聞’10.10.4. ’10.9.24.〜26. 役員・会社員1,032人対象)では、「反対」が29%、「賛成」が50%もあり、賛成理由は研修がやりやすい・社風を受け入れやすい・同期連帯感が強まるなどだ。
しかし、これら早期化是正反対論者や新卒一括採用賛成論者の言い分によると、自企業の都合や目先のことしか考えられないようだ。学生を育てる、あるいは日本の将来を考えて対処するという発想がない。
では改めて問うと、就活早期化・長期化が何故問題なのか。大学・企業双方にとって問題がある。大学にとって、何よりも就活で学業が疎かになり大学教育が空洞化する。企業にとっては、1.学生の成長や成果を見極めずに早期に内々定を出すことになる、2.早期離職者多発の遠因になる(これは、学生にとっても不幸)、3.新入社員教育と採用と重なり、人事の負担になるなど。
一方、現状を肯定する意見にも耳を傾けなければならないが、その言い分として、1.早期化が是正され、受験機会が夏以降に圧縮されると受験企業数が減り、学生にとって一発勝負になって就活期間中に内定が取れず行き場を失う学生が増える、2.就活時期を遅らせたからといって学生が勉強するかは別問題、としている(就職情報サービス会社幹部、日本経済新聞’10.10.11.)。しかし、現状肯定者の論拠は本末転倒も甚だしい。「大学教育空洞化」の問題を、何にも優先して考えなければならないのに。
では、どうすればいいのか。1つの策は、日本貿易会提言のように新卒者採用時期を遅らせることだろう。ほかの策として、大学夏休み期間中にインターンシップで学生を受け入れ、そこで選考をすれば学業の妨げにはならない。あるいは、交際交流基金小倉理事長の提言は大いに傾聴に値するが、3年生を相手に採用活動をしない企業を対象に法人税を減税し、採用活動が立派な企業を毎年ランキング発表する(日本経済新聞’10.11.5.)、というもの。このくらいの思い切った手を打たなければなるまい。さらに、8月に出された日本学術会議の提言は中長期的視点に立ち、しかも具体論が展開されていて、優れた内容である。その中で、学生が授業より就活を優先せざるを得ない現状に対する当面の対応として、1.学事日程と就活が両立するよう大学と産業界とが協働し、土日祝日や長期休暇の有効活用などの具体的なルールやプロセスを整備する、2.卒業後3年程度は若年既卒者に新卒としての採用の門戸を開く、など5点を挙げた〈日本経済新聞 ’10.10.11.)。
ところで卒業後3年を新卒扱いとする案は、11月15日に厚労省が若年者の雇用指針に盛り込んだ(日本経済新聞’10.11.16.)が、罰則規定のない指針は無意味だ(ということに、厚労省は気づかないのか。いや、気づかないふりをして、建前を示しただけだろう)。
罰則がなければ、実際の採用現場では最初から「卒後何年」と選別されるだろう。現実は甘くない、という好例がある。企業は採用をすべての大学に開放しているというが、実態は就職説明会を50%の企業は10大学に、80%の企業は20大学に絞っていて、それ以外の問い合わせには「会場がもう満杯」とか、無反応を決め込む。その証拠に、何社からも「もう満杯」と断られた某大学生が試しに「東大生」として問い合わせをしたら、次々の企業から返信があったという(11/24 BSフジプライムニュース20:00 〜 より)。……ということは、建前は卒業後3年間新卒扱いとされても、真の新卒以外はほとんど最初の段階で選別されるだろう。
だから、以上の諸提案には罰則が伴わなければならないのだ。
さて、そもそも何故就活や新卒採用にこれほど問題が起こるのかの根本原因を突き詰めて考えないと、場当たり的対策ばかりが横行して、根本的解決策が見つからない。
高度成長期の採用システムをいまだに引きずっているのが、そもそもの問題の始まりだ。客観的・主観的状況が、大きく変わってしまっている。経済はグローバル化し、世界の経済力バランスが変化し、企業が影響を受ける要因は増えて、しかも予測がつかない。
つまり企業は、予想外の環境の変化に素早く対応することを迫られ、多様化もした。社会構造も変貌し、その中で雇用形態が変わり、大学・学生の側も数の上でも質の上でも変化した。求める人材も、供給する人材も、変化している。そういう中で、就活・採用活動だけが画一的人材を求めるような伝統的方法に固執している。そこに根本的問題がある。
企業が早期採用、その主要原因である一括採用を続ける限り、大学教育の空洞化、そこを供給源とする企業の人材の質的低下、そしてやがて日本企業や経済の弱体化につながる。早急な対策が求められている。しかも、伝統的方法から脱却しなければならない。
まず、当面打てる対策を打つ。例えば、長期休暇を就活に利用する、採用開始時期を4カ月遅らせる(実は、キャノンマーケッティングジャパンでは今年採用活動を4カ月遅らせた。その結果エントリーも受験者も前年より増え、応募人材も多様化したという実績がある)、あるいは卒業3年間は新卒扱いとするなどを、国の方針として示し、遵守者には減税などの奨励金を出す、違反者には課徴金などの罰則を課すことが要だ。奨励金や罰則がなければ全く意味がない。外資系だろうが何だろうが、国内採用企業に厳格に適用すべきだ。
将来的には、欧米で大学卒業後に多様な社会経験をしてから20代後半に職業を決めるように、新卒一括採用から通年採用に切り替えることだ。適時適材の採用こそが、供給側の人材の質を高め、需要側の企業体質を強めることにつながり、時代の変化に対応できる。
これらの施策は、経済団体や教育団体だけでは限界があることを過去が示している。いわんや一企業や一業界が提言をしたくらいで、事態は変わらない。クリアしなければならない条件も多い。国としての施策が、早急に求められる。当面の対策と通年採用を実現するために、首相直属の諮問組織を直ちに立ち上げて、検討に入るべきだ。とにかく急ぐ!
ITmediaエンタープライズ - 12月30日(水)17時03分)

学生諸君には嘆かわしい話だろうけど、変わんないと思うね。
日本企業がここまで衰退してんのに、まだ政府をアテにしてるくらいだもの。
倒産しないとわかんないんじゃないのか。
つか、日本がウォンと元とドルに支配される日も、今のままじゃそう遠くない。